想い出というものは、甘く、そしてどこかせつない。
それはただの記憶ではなく、
苦い記憶などの不純物を排除し、
ただ甘い感情だけを純粋に積み重ねていく
美化された一つの物語。

故に、恋は甘く、そしてせつない。

時に人はそれに陶酔し、おぼれる。

だけども現実の恋愛など、もっと生生しくて
ひどく冷淡で、そして残酷だ。



僕には、過去の経験を原因とした、女性に対するトラウマがある。

一つ目は、高校生時代。
僕はバス通学をしており、
ある日、隣に立った女子高生から、ひどい暴言を吐かれた。
細かいことは記憶にない。
ただ、見ず知らずの人に、何も悪くないのに
目の前で、あんな悪口を言われたのは初めてだった。
相手は二人連れの女子高生だったが、
もう一人の方が、悪口を言っている友達の女子に、
なんでこんなこと言ってるの?って引くくらいの異常な出来事だった。

それ以来、僕は女性のヒソヒソ話や、笑い声が怖くなった。
僕の悪口を言っているんじゃないか、
僕のことバカにして笑っているんじゃないか・・・


二つ目は大学生時代。
ある縁で、女子高生と付き合うことになった。
最初はネットで知り合ったメル友だったのだが、
元彼との恋愛相談を受けているうちに、
自分に対して優しいこと、親身になってくれる態度に好意を持ったそうだ。
で、彼女から元彼と別れたから、付き合ってほしいと言われた。
正直、初めての「彼女」だった。

でも結局は「付き合う」ことにはならなかった。
彼女からの金銭的な要求がひどかった。
最初はご飯とかプレゼントの催促だった。
付き合うってそんなもんだと思っていたから気にはならなかった。
そのうち、携帯料金が払えないから払ってくれ、
財布を落としたからおこずかいをちょうだいだとか
金銭的な要求になって言った。
誤解のないように断っておくが、彼女とはまだ高校生ということもあり、
知り合って間もないということもあって肉体関係はなかった。
でもなんだかお金の要求をされたときに、これは違うなと気持ち悪くなった。
で、別れた。
多分、実際は付き合ってたのではなく、ただ金づるにされたんだと思う。

それ以来、女性から何かを求められたとき
自分は利用されているんじゃないかと疑心暗鬼に陥るようになってしまった。
達の悪いのは、僕が相手を好きになると尽くしてしまうタイプだということだ。



3つ目は社会人になってからの話。
ここからが本題。

僕はある女性を好きになった。
結婚も意識するくらいの本気の恋だった。

彼女も僕を受け入れてくれた。
彼女とすごした時間は、僕にとって最高に幸せな時間だった。

今でも鮮明に彼女とすごした時間、出来事を覚えている。

でも、それは残酷な仕打ちの前ふりにすぎなかった。

実は、彼女には婚約をしている恋人がいた。
僕は彼女にとって、まだ遊びたいという彼女の悩みの、相手役にすぎなかった。

でも僕は諦めなかった。
恐怖を振り切って、彼女にぶつかった。
訴えられても構わないと思った。

何度も泣いた。彼女も泣いた。
二人とも大好きなのに、別れなくちゃいけないなんてすごく苦しかった。

結論から言うと、
僕は彼女にフラれた。
でも僕が負けた相手は婚約者ではなかった。
まったく予想外のところから現れた、第3の男だった。
まるでピエロだ。
3股だったんだ。

でも婚約者の彼に比べたら、まだましな方だ。


そして、僕は女性の「好き」という気持ちに不信を抱くようになった。


その後も何度か恋愛したけど
幸せな展開なんて一度もなく、
たいていはフラれるか、片想いのまま相手が他の人と付き合うとか、
そんな落ちばかりだった。


そんなことを繰り返して、
僕は人を好きになることを諦めた。

北斗の拳のサウザーじゃないけど、
僕がいたった結論は、人を好きになること、愛することはもろ刃の刃だ。
それはとても魅力的な、甘い感覚だけど、
結局は自分を傷つける。

だから愛なんて感情は必要ない。

そして神様に、人を好きになる感情をなくしてほしいと願った。

結果、願いはかなった。

ちょっと望んでいたものとは違うけど
人を好きにならないようになった。
誰かに惹かれることがあっても、
好きという感情になる前に、諦めてしまうのだ。
どうせ自分なんて・・・・

結果、つらい思いをすることが減った。
でも人生が楽しくなくなった。



もう一度、僕は甘い経験をできるのだろうか。
生きることに喜びを感じられるときが、もう一度来るのかな・・・