偶然が3度重なった時は、
何らかの運命的な力が作用している、なんてことを言う。

たとえば、
街でたまたま知り合った女性がいるとする。
名前も、どこに住んでいるのか、どこで働いているのかも知らない。
別の時間、違う場所でその女性とまた会う。
そこまでは、ただの偶然。
しかし、何の関係も、法則性もないのに
もう一度、そんな偶然の再会をしたとしよう。

それはもう偶然ではなく、「運命」の出会いなのだとか。

そもそも運命ってなんだろう。

世界は、偶発的出来事の積み重ねで形成されている。
それこそいろんな人の意思、行動が、バラバラのタイミングで交差していく。
結果的にこそ、人の思考の傾向性だったり、
あるいは仕事や学校のような社会的環境によって、
一定の法則性が発生する。

しかし、その法則性すらも偶然的事件によって、変動を起こしうる。

それは、運命という予定的結果によって、既に決められているものなのか。

僕はこう思う。
「運命」とは、「言い訳」に過ぎないのではないか・・・

つまりは、自分の意思に反した結末を受け入れるための「言い訳」であったり、
または自分の意思が間違っていないことを裏付けしようとするための
都合のいい「言い訳」ではないのか。

いずれにしろ、
恋においては「運命」というやつは、積極的な意義で用いられることが多いようだ。

主に、関係性の強さ、絆の強さを誇張する、裏付ける意味で使われている。
運命の恋、運命の出会い、運目の相手・・・

結局は「運命」なんて「意思」に他ならないような気がする。

運命だと思いたい気持ち。
運命だと信じたい想い。
運命であってほしいという願い。

では、その「運命」の〇〇には、確実性や永続性はあるのだろうか。

出会ったのが、愛し合うことが運命ならば、
別れること、拒絶しあうことも運命なのか?

僕は「運命」を信じないし、信じられない。
でも、「運命」であってほしいという「想い」には共感を覚える。



【続き】

僕は、ショッピングモールにあるメガネ店で働く女性に出会った。
僕がずっと想い描いてきた、理想的な女性像。(外見のみだけど)
まあ、それだけであれば、よくある「最近かわいいコを見かけた話」でしかない。
そこで彼女のことをいろいろ調べようとしたならそれはストーカーだ。

でも、そもそも恋愛自体をあきらめている僕は、
ストーカーになる気力すらない。
ましてや思い切って声をかけたり、
メガネ屋に通いつめて顔を覚えてもらう努力をしたりする勇気も根性もない。

今も彼女の名前も年齢も何も知らない。
知るすべもない。

まあ、普通はこれで終わりな話なんだが、
実はちょっとしたことがあった。

4月15日。
市内の某ホテルにて、カクテルの大会があった。
僕の友人のバーテンダーが出場するということもあり、
日曜日、暇を持て余していることもあり、応援のため僕もイベントに参加してきた。

会場は、
大抵水商売の女性と、その同伴相手と思われるおっさん。
または出場している選手(バーテンダー)の客だったり、
昔バーや飲み屋で働いてた人々が中心のため、
どこか夜の香りがする雰囲気だ。

ただ、大会も5回目にもなると一般客も増えてきており、
子ども連れの夫婦や、恋人たちが目立つ。

一人で来ているモノ好きなど、ほんの一握り。
俺もその一人だ。

正直、つまらない。

クラシックのコンテストは、今回は試飲ができないため、楽しみも半減だ。
フレアは地元選手がさえなく、招待選手が盛り上げていた。
ただ、あまりにもイベントの時間が長すぎるため、
正直疲れており、気持ちが冷めているため、楽しめなかった。

そんな中、リア充たちに囲まれたロンリー童貞は、もはや死ぬ寸前だ。
知ってるかい?
ウサギちゃんは淋しいと死んじゃうんだぜ。

コンテストの合間のイベントで出されるウォッカ(ショット)や、
マティーニが、全然強く感じないぐらいのやさぐれ具合だ。

ああ、前の客なんて、女子が酔って、男子に寄りかかってるし・・・
こいつら、絶対今日やるな。

もう地獄。
ああ、来なきゃよかった・・・

退屈晴らしにフラフラとしている僕の前に、
あの彼女が現れた。僕の理想的なファッションで。

最初は気付かなかった。
どこかで会ったことあるなぁ、くらいの感覚だった。
思い出せない。
会社のアルバイトさんだっけか・・・
はたまた過去に合コンで会ったことある娘だっけか・・・

そして脳内にメガネ店の光景がよみがえる。

あ!?彼女だ。

長く見すぎたのか、彼女もこちらを見た。目が合う。

彼女も俺のことに気付いただろうか・・・

隣には女性(友達)が一緒にいた。
どうせ彼氏と来ているんだろうな・・・

てか彼氏と来てるのかな。
隣にいるのは女性(友達?)だった。
でもこういった大会って女性だけで来ることは珍しい。
たいていグループか、恋人や家族と参加する。
連れの男性二人組がどこかにいるのかな。

もちろん声なんてかける勇気はないし、連れがいるからかけづらい。
ましてや相手が全く覚えていなかったら・・・

とりあえず自分は席に座る。

彼女はまだいるのかな。男性の連れはいるのかな。
大会よりもそっちの方がずっと気になっている。

てかそもそも仮に彼女に彼氏がいなかったとしても
俺のことなんか相手してくれる訳ないし、
結局は俺はお客さんであって、
ま、あ、ショッピングモールのメガネ店の店員さんですよね。
くらいしか話すネタはないし・・・

ん?でもこの大会を見に来てるってことは、
どっかのバーにいるか、あるいは同じ街に住んでるってことだよな。

ということはもしかしたら飲み歩いていたら、また会えるんじゃないか?

なんて思う。
でもこれだけの情報で本当に出会えたとしたら
それこそ運命の出会いじゃないのか?

とか考えてるけど、そもそも彼女がどの辺に座ってるかなんてわからず、
だから男性の連れがいるかも分からないまま、
てかそもそもそんなに彼女のこと追ってたら、
それって偶然とか運命の前にストーカーじゃね?
みたいに思いだして、再び自己否定・・・・

で、大会も終盤になって、帰る客がちょろちょろ出始める。
出口の方にふと視線を移すと、そこに彼女がいた。

さっき一緒にいた女友達と二人だけだった。
そうか。。。男と一緒じゃないんだ・・・
なんか少しほっとする。

でも大会に来ていないだけで、彼氏がいないとは限らない。
もしかしたら車で迎えに来るのかもしれないし、
あるいは出場者の中に恋人がいるのかもしれない。

フレアを気にしながらも、彼女の方が気になる。
ふと彼女もこちらを見たような気がした。
ま、偶然だろうけどね。

知らないうちに彼女たちは帰っていた。
結局声をかけることはできなかった。

ま、本当に運命なら、あと2回は偶然の再会をするだろう。

その時は、勇気を出して、声をかけてみよう。
それまでにはちょっとダイエットしないとな・・・



「運命」は、待つのではなく、
「意思」によってもたらされるものである。

では彼女に会いたいと想う気持ちが「運命」を引き寄せるのか。
いや、気持ちでは何も変わらない。
全ては「行動」だ。


・・・って、別に「行動」する気はないけどね。
理想の女性像だからって、一番好きな人とは限らない。

ま、「偶然」が「運命」になるようなことがあれば
いずれその時はまた彼女のことを語りましょう・・・


                                               続く。