植物の生長や動物たちの動きが活発化し、春の花々の美しい色合いに癒される機会が多い3月…。
 「桃月」「桜月」とも言われてきたように、桃や桜の花びらが咲き誇るこの頃は、“集い”や“ハレの日”用の新規客、もしくは買い換え需要客を喚起できる。
 「マザーニーズ」用のおめかし服から春の「ブライダル」、そして「卒業・卒園・謝恩会」用のフォーマル&ゲストウェアーの「ニーズ」も一気に芽を吹こう。
 3月(弥生)は、英語で「MARCH」…由来はローマ神話の軍神「Mars」からで、彼がローマ建国の神として崇拝されてきたことから、草木がいよいよ生い茂る3月が、彼の偉業をたたえるにふさわしい「躍動月」になったという。
 また昔のヨーロッパでは、3月25日~4月1日が、新年のスタートだったことや、わが国では「キャンパスライフ・オフィスライフ」の年度始めであることをふまえ、気持ちも新たに、積極的な春商戦を推し進めていきたいものだ。
 さて、本誌が読者のお手元に届く頃は、第7回目となる「フィッティングアドバイザー(2級)…レディス&メンズ」の資格審査が終了し、肩の荷をひとまず降ろしたものの、審査結果をドキドキしながら心待ちにしている方も多いことであろう。
 
◇ 気をゆるめられない話
 
 2003年の秋に、プロセールス資格制度がスタートしてから、早いもので今秋に4年目を迎える。
 少しづつ形を変えつつも、百貨店らしい権威あるものに近づいてきたようだが、外野からは、手厳しい声も少なからず聞こえてくる。
 例えば、一部で覆面リサーチをされているケースなどがある。
 つまり「フィッティングアドバイザーのお手並みや手腕」を、秘やかに調査している、パーソンや企業が実在しているのだ!
 昨年の暮れのことだが、小売業界のある忘年会でその事実を知り、驚くと同時に「良くあることだ、さもありなん」と感じた。
 さらに、もっと手厳しかった声は、短期契約で数社の百貨店へ出向いているベテランFAたちから、「バッジ(1級・2級いずれも)を胸に着けている社員の、技能力にはバラツキがあって、大半は、期待したほどではない!」といった、きついパンチまで食らってしまったことだ。
 後者は、服飾販売のあらゆる状況をくぐり抜けてきた、先輩FAたちの意見だから、半分を差し引いて聴いてもないがしろにはできまい。
 前者に関しては、お酒の勢いも手伝っていたとはいえ、リサーチを手がけた当の本人(リサーチを得意とするコンサルタント)がもらした情報ゆえに、緊張感が走った。
 バッジを取得することは、企業と本人にとって、責任を持った「販売サービス」を推進していくための、証しやメッセージになる。
 また、体系立てた「知識・技術」を習得することにより、自信を持って職務を全うできるし、資格取得者にとっては、一層の「励み」と「やりがい」につながろう。
 だが、一般の方々も受講できるよう公開(昨年末に)された「3級講座」の水準は、昔のプロFAなら熟知していた事柄が多く、本来は、新人研修時に完了させておくべき内容が多い。
 ちなみに3級資格のグレード・レベルには、「顧客ニーズに応えられる、百貨店の販売知識がある」。
 2級資格のグレード・レベルについては、バックナンバー(昨年の12月号)で、発足時の内容を紹介させていただいた。が、今現在は「知識と技術を駆使できる、顧客満足を実現できる、専門家として認められる」と掲げられている。
 また、1級資格のグレード・レベルは、「顧客に感動を与えられる、周囲からも尊敬される、指導・育成ができる」と設定されている。
 それらのうち、「フィッティングアドバイザー」としての、技能力を具体的にうたっている点では、2級にインパクトがあろう。
 そういった水準を、お客さまの立場でながめてみると、服を扱う百貨店の全スタッフが、「1級・2級・3級」の全てを満たしていて欲しいであろう。
 商品とサービスの同質化傾向が著しい昨今は、「3、2、1級」と、審査を順々にクリアーした後、それなりの実力(販売力)が備わっていくことを最優先しなければ、他業態との差別化を図る上で、時間は待ってくれないだろう。
  
◇ 標準コード策定のすすめ
 
 服飾関連の分野は、感性が前面に展開される傾向が強いため、適切な「専門用語や表記」があいまいなまま野放し状態という、危うげな現実がまかり通っている。
 そこでおすすめは、CS(顧客満足)やロイヤルティの向上を極めていく一環として、「百貨店プロセールス資格制度」では、率先して「あいまいな用語」や「適切でない用語」について、お客さまがわかりやすいような標準コードの策定に着手してはいかがだろう?
 以下に、既製服における「フィッターの使命と必要性」を、80年代の後半から衣料業界に提唱し続け、誕生と育成に努めてきた立場から、具体例を列記させていただいた。
 以下の①~③は、今までに各方面から問い合わせを多く受けたうちのほんの一例である。
 
その①〈お直し〉…「サイズ調整(サイズの詰め出し)・修理・体形別補正・リフォーム」までがその範疇となる。
その②〈体形・体型・体格〉…それぞれの意味合いをきちんと整理し、「資格制度」にふさわしい適切な使い方と概念を打ち出す。
その③〈ピン打ち・ピンワーク・ピンナップ〉…「ピン打ち」とは、既製服の「お直し承り時」や注文服の「仮縫い時」に、服をまとっていただいた状態でサイズの調整をしたり、シルエットやゆとり(ゆるみ加減)をふまえつつ、着心地の良い美しいラインを描くためにピン(シルクピンや待ち針など)で止めていく作業工程。
 一方、後者の「ピンワーク」と「ピンナップ」は、広義的には、双方とも商品の「装飾時」に行なわれるテクニックの和製英語。つまり、「ピンワーク」とは、マネキンや布張りの「ボディ・トルソー・人台」、もしくは空間に一枚の布を使って、造形的にアート(ドレープ・タック・ギャザーなどを寄せる)をしていく手法のことで、「ピンナップ」とは、商品を壁やパネルなどに、ピンで止めたり、張ったりすることを指す。
 したがって、生身のお客さまを「接客・接遇」するときの、フィッティング関連の用語としては適切ではない。
 末永く多くの人々に支持される制度であり続けるためにも、適切な用語をまとめた「標準コード」の策定も必要となろう。
 次なる課題は、2級審査に臨む前段階での「各指定校」の温度差か?
 各指定校では、押さえるべきポイントを前提として、「2級講座」のカリキュラムにそれぞれの独自性を打ち出している。
 そういった歓迎される面がある一方、2級講座における「試験対策用のテスト」が、本番に限りなく近いケースがあったり、情報量の少ない指定校では、「手探り」に近い状態で、対策用のテストを実施し、審査に受験者を送り込むケースもある。 そういった温度差がなくならない限り、合格率にも響いてこよう。
 「プロセールス資格制度」は、試験に受かることを前提としながらも、それに託された使命や職務は、“お客さまがあってこそ”のものであることは言うまでもない。
 
◇ サイズトレーニング
 
 年明けの早々、某百貨店で「ボディフィッティング」のセミナーを担当させていただいたが、そこでは刺激的でうれしい“出会い”があった。
 いつもなら、服を扱っているスタッフ(レディス&メンズ)を対象のセミナーだが、学びたい社員は売り場を問わず参加できるという新しい試みがされた。
 「宝飾」「呉服」「婦人靴」…といったメンバーの他、多様なセクションの方々が集まった。…全員が手に手に、メジャーとピンクッションを携えて臨んだ。
 講義のイントロで、「リング(指輪)のフィッターと、シューフィッターはすでに活躍しているから、次には、呉服のフィッター誕生も夢ではないわネ!」と、投げかけてみた。すると多くの瞳から、まんざらでもないような輝きを感じとれた。
 メジャーは、洋服売り場には欠かせないCSツールだ。また、「お直し」がないアイテムを販売するにあたっても、優れものツールであることを再度伝えた。
 お客さまからごらんになって、もしも、衣料品を扱う店舗や売り場に「メジャー」がなかったら、「聴診器」を持っていない医者のようだ。
 ボディサイズ(実寸)を正確に計れるトレーニングを積み、採寸が上手にできるようになることで、精度の高い「サイズカルテ」が作れる。それを、販促用のツールとして活かせられる。…そう伝えると、全員の「メジャーリング」=(メジャーを扱うこと)に勢いが増した。
 採寸に関しては、昨年の初夏に研修をお手伝いした、百貨店でのうれしいエピソードもある。メジャーを使う機会がほとんどなかったニット売り場の女性社員が、「採寸」を学んで以来、お客さまの「バスト寸法」(ヌードサイズ…実寸)を承ってから、適正サイズのニット商品をお選びしたところ、お客さまから喜んでいただいているというケースもある。
 話は先のセミナーに戻るが、講義中に「加齢で変化するのは、身体ばかりじゃないのよッ、顔の表情筋もそうなのよッ」と言い放ったところ、目の前で素直にうなづく男性社員がいた。…ふと彼の机の上に目をやると、なんとそこには「黄色」と「チョコレート色」のなつかしい本(94年と98年に発刊した私の著書)が積まれていた。
 彼と私は、13年ぶりの出会いだった。彼はすでに「レディスの2級」を取得していた。
 受講してくれたのは、「新しい発見」を求めてのことだろう。
 その日、担当の売り場をまかされている彼から、私の方が「英気」をもらった気がした。
 マルスにあやかって、3月商戦を大いに躍動させてみよう!
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