2003年にスターとした百貨店プロセールス資格制度は、「レディス・メンズ・ギフト」と、それぞれ合わせると、資格取得者が約1万6千人ほどになるだろう。
 それらの制度は、元はと言えば、百貨店業界の労使が共同で、「接客のプロ」を育てようとの主旨で始まった。さらには、百貨店に来られたお客さまに「平準化された良いサービスを…」という思いも託された。
 一方で制度発足には、もう一つの大きな構想もついていた。それは「労働力の流動化に対応できる制度」の確立だった。
 例えば社員が、自社を退社して他県へと引越しをした場合に、移転先にある他社の百貨店へも、資格の所有により優先的に採用されるという仕組みだ。
 それがやがて、お取引先をはじめ、服飾関連や各種の専門学校へと門戸が開かれ、ついに1級審査のオープン化へと変化してきた。
 このように他業態との差別化も図る必要があったはずの「技能力」だが、全国的にフレンドリーに広がり始めている。
 ここで改めて、制度の発端となった「きっかけ」や「推移」に私も無関係ではなかったため、より生産性が高くなるよう推移をお伝えする。
 制度が発足する以前の2002年までは、西武百貨店で7年間にわたり、社内認定資格「衣料フィッター」の講師と審査委員長を担当した。
 また、東武百貨店(宇都宮店)では、2期にわたって社内認定資格「フィッティングアドバイザー…現・百貨店協会の名称と同じ」の誕生をサポートした(講師・審査官として)。
 同じ頃、「三越」では、人事と労組のタイアップにより3年間にわたって、社内認定資格「ファッションフィッター」の講師と審査委員長を務めさせていただいた(他の百貨店数社でも、人事や労組からの要請でボディフィッター研修を担当)。
 このように、百貨店の「ボディフィッター」関連の人財(材)研修、教育事業と深く関わり、多くの優秀な社員を育成できたことを自負するとともに制度発足の「ヒント」にしていただけ、百貨店を様々な形で支援できたことに感謝している。
 あらためてフィッターは奥が深い。以下の実例は、そんな一端だ。
 初夏に、公開セミナー「スタイリングフィッター(ボディフィッター)実践講座~インストラクターコース」(ドミナント主催)に、老舗の著名紳士服専門店から、レディス担当の優秀な女性が送りこまれた。
 申込みをいただいた折りに、そちらの「人事・研修」担当の方に、「一番、学ばせたいこと・知りたいこと」についてヒアリングをさせていただいた。すると、「彼女はファンも多いし、服飾知識や補正技術も申し分ない。だが迷いもあるため、現場(お客さま)と乖離しないようにするには、何を、どの点を、優先順位にして接客販売をすべきか?」とのことだった。
  注文服と、既製服の双方を展開する企業ならではの、的を射たブレない課題が返ってきた。
 豊かな「販売経験」と「現場経験」があれば、「どこが、何が、ご満足のポイントで、どうすることで、修理費の削減につながるか? 対話のやりとりとコツは?」など、究極のCSポイントをはずさずに済むだろう。
 約20年前に、衣料業界では初のフィッター本を出版させていただいた直後、賛同を得られたせいか、服の「フィッター」関連の名称を掲げる人や企業がわんさか登場した。
 しかしながら現状は、サイズの「詰め出し」や、反対に「リフォーム・リメーク」の範疇を掲げており、本質を理解していないケースがほとんどだ。そういうことが災いしてか、未だに業界内の混乱と誤解を招いている。
 カン違いが多いため、修理費が相変わらず嵩み、「お直し」に関するトラブルの続出は後を絶たない。
 つまり、既製服のフィッターとは?
① 「できるだけいじくりまわさずに、調整・補正のポイントを狙い当て、オーダー感覚の醍醐味」をお届けできる。
② 「修理・加工室」の技術水準にはバラツキ(人の手によるため)があることを理解し、どこまで承ったら、再お直しや、苦情を未然に防止できるかの分岐点を見極められる。
③ 「リフォーム・リメーク」とのすみ分けを理解し、元のイメージを損なうことなく、各パーツに必要な「ゆとり」や「隠し技」を駆使できる。
④ お客さまの体形(型)・体格・ボディラインと、型紙との「不釣り合い」からくる、不自然なシワやツレジワを、着こなし方でごまかすことをしない(一時的に納得していただいても、動けば戻るためクレームが発生)。
⑤ 体形(型)ごとの補正が発生した場合、既製品の範囲で可能な手法を熟知している(たずねられたら、きちんと説明ができる)。…以上を充たすパーソンである。
 こういった分野は、洋裁学校や服飾専門学校で4年間学んだ人でも、90%の方が「教える自信がない、わからない」と口々に訴えてくる!
 パターンを起こせなくても、縫製が苦手でも、「販売経験」を積み重ね、あまたの「修理・加工業者」を把握できていることで「実務・実学」としての技能力がついてくる。
 すなわち、「ギフトアドバイザー」のように、TPO・予算・購買動機が明確なケースとは違い、「フィッティングアドバイザー」は、販売実績を重ねるほどに、複雑極まりない案件に出会う確率も高くなろう。
 修理やリフォーム、ショーにおける「応急処置」的なピン打ちのレベルでは、「販売力」の向上にはつながらないことを、業界全体があまりにも理解できていない。
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