商いも春の陽光につられて、発芽期から、草木が燃えるような新緑の萌えるシーズンに入る。
 本号(3月号)を執筆の頃は、第5期目となるフィッティングアドバイザー制度(2級)の資格認定審査の真っ只中だった。
 また、昨秋スタートした「ギフトアドバイザー」の認定審査も、同時期に進行していた。
 03年の秋にスタートした、百貨店プロセールス資格制度に、今期からあらたに「シューアドバイザー」制度も加わる。
 昨今は、業態間でのボーダーラインがあいまいになり、高齢化社会の到来が直前に迫ってきているため、商いの先が読みづらくなっている。 また、他業態との差別化を図ることも必須課題だが、「競合より融合」への流れが勢いづいている。
 したがって、あらゆる角度からの研鑽を積むことは、労使双方にとって、先行きの不安を少しでも軽減できる一助となろう。
 企業本部が、第一線で活躍するスタッフの「従業員満足」=(Employee Satisfaction)を後押ししてくれることは、心のゆとりにつながり、お客さまへの「サービス向上」に、さらなる潤いをもたらすであろう。
 
 ◇ 機転のサービスに感動
 
 企業や組織が大きくなるほど、「機転」を効かしたサービスが実践できにくい傾向がある。
 私的なことであるが、昨秋、長年愛用した冷蔵庫が急におかしくなってしまった。
 たまたま出張を控えていたこともあって、勝手を承知の上で、近くの量販店に駆け込み「今日中に届けて欲しい」と頼んでみた。が、答えは「ノー」…。
 すぐさま隣接するSCのインショップに泣きつくと、「夜の9時頃になりますが、配達いたします」と、即座に対応してくれた。たかが電化製品といえども、もし、前者が他のユーザーにもそのような対応をしているとしたら、いずれ自らの首を絞めることになりはしまいか?
 また今春に入ってから、半ばあきらめかけていた件に、ハートフルな対応をしてくれた企業があった。老舗の大手である「ビジュアル関連の機器」を扱うC企業の営業部の対応はとても温かかった。
 事の発端は、「VMD」関連の研修会に出講する前日の午後、主催者側から一本の電話が入ったのだ。
 事前に綿密な打ち合わせをしていたのだが、届いたのは、「スライド」専用の映写機ではなく、資料を投影する、最新型のプロジェクターだったのだ!
 実は昨年の春にも表参道にあるメゾンで、研修会の直前に同じような経験をしていた。
 手動式の映写機を使いたい講師が少なくなったことや、パソコンを使って、スクリーンに映し出す手法が今どきは受けていることから、昔ながらの「アナログ」系機種のニーズが激減していることはわかっていた。
 だが、VP作業の手順やチェック項目、「作業前と改善後」を、制限時間内でレクチャーし理解してもらうには、「間の取り方」や「呼吸・リズム」に私なりのこだわりがあるから、「古い」と言われても未だに手動式が好きなのである。
 「地元の関係筋にもいくつかあたってみましたが、ご希望の機器が見つからないんです。なんとかなりませんでしょうか?」と泣きつかれた。
 ささいな「ハプニング」と言おうか「ピンチ」に、何のツテもない企業名だけを知っていた、先の本社に電話をかけて事情を話してみた。すると、ご希望の機種はすべて出払っていますが、同じように使えるタイプを、「明日の午前中までに、お届けいたしましょう」との声が!
 「お代は?」とたずねると、「研修会が無事に終了することが優先ですので、往復の送料だけで結構です」と、神のような声が返ってきた。
 近頃は、マニュアル通りの対応や、お客さまが「カヤの外」のような対応が意外なほどある。一方、ユーザーの多くまでが、「今の時代はこんなものよッ!」とさめているような傾向もある。
 「機転の利くサービス」と「人間味のある感受性」は、接客サービス業にとって、再び問う必要性があろう?
 
 ◇ ターニングポイントの視点
 
 今月末から4月にかけて、企業の多くは上期スタートの節目を迎える。
 年度はじめにちなみ、既製服の「フィッター」について、新人や後輩が混線しないよう、歳を重ねてきたFA(筆者)の立場から、整理してみることにした。
 《視点その1》
…「フィッティングアドバイザー」や服の「フィッター」は、カン違いをしてはいまいか? つまり、“服を美しく見せる”ことはさておき、本来の目的は、服を購入されたお客さまが、“さらに美しくなるよう努める”ことが最優先なのである。百貨店のスタッフをはじめ、そういった基本を、いつの間にか本末転倒させてしまっている方が少なくない!
 《視点その2》
 既製服の場合、FA(社員・フィッティングアドバイザー・メーカーから出向のスタッフ)という立場から指示・伝達をする「フィッティング技術」と、受注する立場である、修理加工・リフォーム業者の「スキル」と、デザイナーが、ファッションショーで、自らの作品をモデルに着せて、服の魅力を「最大限にアピール」するための「テクニック」は、共通点はあるが、対象と手法の「許容範囲」は異なることを、今一度、コーチする側も見極めなければならないだろう。
 こういった内容が、同一線上で語られると、ターゲットを絞り込み、「カバー率の良いサイズMD」に努めてきた既製服の「修理加工費」は増大してしまおう。とはいえ、扱い商品やグレードの高いゾーンでは、制約内の在庫で“オーダー感覚”のお手伝いをするケースが沢山ある。それぞれの立場での相違点を理解できると、失敗は未然に防げるのである。
 3年ほど前、著名デザイナーの「ドルチェ&ガッバーナ」も、業界紙のインタビューにこう答えていた。
 「服が着る人に美しさを押しつけてはいけない。世界中のあらゆる女性の体形とシチュエーションを考えて、『着る人の美しさ』を生かし、着心地の良い服を作るために、プレタ(高級既製服)といえども、カッティングを含めた具体的な技術の研究をし続けている」…と。
 まさに、これぞ「フィッティングアドバイザー」の究極のゴールをさとしていると感銘を受けた。
 《視点その3》
 国内外のデザイナーやモデリスト、パタンナーは、究極のシルエットやデザインを作り続けることに情熱を傾けている。自らの作品を必要以上に、いじくりまわされては、心中おだやかではいられないであろう。
 クチュール店で修業をしていた頃、プロのモデルをはじめ、「ミス・ワールド」を招いたファッションショーにかり出され、企業内のインストラクター時代は、コレクションの発表前に、著名デザイナーがディレクションした服を「最高にアピール」するために、モデルの身体に合わせる補正を手がけた。
 また、婦人服イージーオーダーの「補正師」と販売職のときは、お客さまの「ご容貌」や「プロポーション」を魅せるために、「ユア・サイズの調整」と「パターンと体のふつりあい」からくる「ツレじわ」を緩和することに努めた。
 「ボディフィッター&スタイリングフィッター(商標登録)」の育成をスタートさせた90年代の初めから、沢山のFAとの“出会い”があり、気がつけば何かしらの形で、数社の著名インポートブランドでも、フィッター育成の研修をさせていただいた。
 結果、「ドルチェ&ガッバーナ」の「思い」と「熱意」を充分に理解できるようになった。
 
 ◇ 三つの宝石箱
 
 「フィッティング」関連の研修では、いつも決まって「今日は、お直し技術のセミナーではありません…」と切り出す。すると、受講者の多くは、「えッ」と声を発したり、「ギョッ」とした表情を見せる。
 フィッター研修の主旨は、
(1)服に強くなる。
(2)着こなしが考えられる。
(3)サイズに強くなる。…が私流の三大ツボとコツであり、「宝」だと明言している。
(1)に関しては、「パンツの仲間は何と何?」
(2)に関しては、「プラス発想のスタイリングマジックとは?」
(3)に関しては、「JISサイズの9号もしくはM判と、扱い商品の普通サイズとの関連は?」
 というふうに、たたみかけてみることにしている。
 そうすることで、本物のフィッターと呼ばれるには、一般的な「商品知識」や「サイズ調整」では事足りないと気づいてもらえるからである。
 「くり返し、足を運んでいただける」ためのコーチングは、まずは、エネルギーを蓄えることからか?
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