百貨店プロセールス資格制度の、「フィッティングアドバイザー」がスタートしてから、3度目の秋を迎えた。
 去る7月27日から実施された、第4回資格取得審査は、8月17日の福岡会場ですべてが終了した。
 今期(初秋から晩秋)開催の第5期目となる2級指定講座は、関係各社へ立秋前に通達されたが、今秋は、プロセールス資格制度の第二弾となる「ギフトアドバイザー制度」もスタートする。
 こうした制度が着々と整備されていくことは、プロ集団としての「自信と誇り」をあらためて問う絶好のチャンスにもなろう。
 また、現場サイドのFAにとって、バックアップ体制が整ってくると、気持ちに「ゆとり」が生まれるので、積極的な商いへとプラス方向の「うねり」が一段と強くなろう。

 ◇ 悩めるFAへのアドバイス

 私が担当の指定講座では、スタート時以来から「クレームを未然防止するための」ワークショップを実施している。
 こういった内容の研修は、今まで百貨店以外でも実践してきたが、衣服一つを取り上げても、現場サイドでは、各人各様の悩みを水面下で抱えていることが多く、未解決のまま日々の業務に流されてしまっているケースが多い。
 そういったことは今に始まったわけではなく、社員も派遣スタッフも、パートの方々も同様で、衣服なら、「フィッティング・スタイリング」を筆頭に、「クレームやコンプレイン」の対応策や販売スキルなどに対して「これでいいのか?」「あれは大丈夫だったのか?」と、一抹の不安や自信のなさを抱えつつ、日々の業務をこなしているのである。
 それらの内容は似たり寄ったりで、基本的なことは変わらないものの、ときとして、想定外の複雑なことにも出くわすことがある。そんな時、「売り手も買い手」も、明確なアドバイスや答えが欲しいものの、不完全燃焼のことが多々ある。
 それらの悩みを、各社の共通課題としてすくい上げてあげる。その後、悪戦苦闘した事例や、不安ながらもサクセスにつながった事例を共有させ、どの店舗にも起こり得るケースには、考えられる限りの原因をあげ、過去の具体例をもとに、解決策をすべてアドバイスさせていただいた(いずれの事例も、未解答なし)。
 こうした機会に、参加者の面々が自らを顧みることができるのも、プロだからこそで、全員が課題をきちんと列記できている。
 例えば、異業種例だが、何百回もの飛行経験のある名パイロットが、「自分が納得できる離発着(衝撃がほとんど感じられない)をしたのは、たったの2、3回だった」と話されていた。
 また、九州地区で業績を伸ばしているラーメン屋の主人は、お客さまからいつも「うまい!」と言われてきたが、「これで良しッ」と、自らが満点をあげられた「スープの味・麺のゆで加減」などは、せいぜいどんぶりで2、3杯だったと、異業種の交流会でスピーチされていた。

 ◇ 想定外のハプニング

 本来は、「サービス提供業」のはずが、それなりの努力をしているにもかかわらず、ハプニングやトラブルに直面することがある。
 接客態度や情報サービス関連のことはさておき、「フィッティングアドバイザー」や、衣服を担当するスタッフにとって、縫製不良や素材のメンテナンス、「お直し」関連のクレームはいつもつきまとう。
 通常のケースなら、各店の規定に沿った対応や、クレーム担当の責任者に委ねることで、おおむね一件落着となるが、想定外の苦情や難題に見舞われることがある。
 テキスタイル一つを取り上げても、近年は「アート性」や「表面加工」の面白さ、ユニークさを前面にうたったタイプが増えたせいか、耐久性の低い布や、すぐにピリング(毛玉)ができてしまうタイプが増えた。
 また、接着芯(不織布も含)の普及は、生産性の向上にひと役かってくれた一方で、クリーニング後の型くずれ(接着剤の溶解が主原因)をもたらした。
 思い起こせば、東京オリンピックの前後あたり(1962年前後)には、固形せっけんを使って洗濯板でゴシゴシ洗い、手でパンパンはたきながらシワ伸ばして干すと、アイロンなしでも着られる、上質のブロード(綿100%)製ブラウスやワイシャツがあった。
 ときには、紡毛(ウール100%)地のスカートで、2、3時間も正座をしていたのに、ヒザがほとんど出ないツイード地もあった。
 また70年代はじめのニットでは、中性洗剤で何回洗っても、風合いや着心地に、さほどの支障が出ない強撚糸(羊毛100%)の優れものセーターがあった。
 昨今は、デザイン性を追求したり、原価率をできるだけ抑えたり、海外からの商品が増えるケースがエスカレート気味のため、苦情やトラブルは、時代の進歩に反比例して多発している。したがって、「イザ!」という時に、あわてずにきちっと承れるよう、いずれのスタッフも取り扱いやメンテナンスに強くなっていたい。
 「お直し」関連での困った実例では、以下のような難題が百貨店に持ち込まれた。
メンズジャケット(高額品)…裏地がすり切れてしまったので、裏を張り替え(付け替える)て欲しいとか、愛着のある上衣の表地が 弱ってきたので、表と裏をひっくり返して、仕立て直しができない か?…など、百貨店内の著名ブランドに持ち込まれた。
レディスの場合…著名インポートブランドのスーツ(10年程前に購入された)を持って来られた方が、トレンドに合わせて「細身のシルエットに、なんとか直して欲しい」と切望された。
レディス・メンズの双方…前打ち合わせ部分の裏側(見返し部分)が、「長年愛用して破れたので、なんとかして欲しい」とすごまれた事例の他、ボタン穴(既製品は、穴糸でボタンホールステッチ仕上 げ。注文服は、共布の玉縁仕上げ)が、ボロボロになったので修理をして欲しいと言われた。
著名なインポートブランドの超難題…ウン10万円のスカートを気に入ってくださったグラマラスな方は、上顧客であった。ワンサイズしか作っていなかったので、適正サイズがないことをていねいにお伝えした。しかし、コトは前代未聞の事態へと発展した。上等なスーツが4着も買える(ボリュームゾーンでは)値段のスカートを、「2枚買うから、それでマイ・スカートを作って…」と切望されてしまった。
 担当売り場の上司に相談した上で、お取引先のコーディネイターに連絡したが、ブランドのイメージを重視するメーカー本部からの返事は「ノー」だった。「それでもなんとか」というお客さまは、その百貨店にとっても上得意さまだった…。機転が必要な緊急事態に、メーカーからキーマンが駆けつけて、正確な採寸がなされた。 こうして、2枚のスカートは、1着のセミオーダースカートに様変わりし、とても感謝された。
毛皮のコートが脱け毛…7、8年前に購入いただいたコートに、円形の脱毛ができたので直して欲しいとのこと(収納時のお手入れや、保管の状態が良好でなかった)。お買い上げから年月が経過していたが、「毛皮は一生もの、と説明してくれたから買った」と、お客さまの語気は荒かった。メーカーや専門家の協力で上手に補修されたコートは無事納品された。…など他。
 こういった事例は、フィッティングアドバイザーばかりでなく、「クレーム対応」の責任者までを容赦なく悩ませている!
 それらに比べれば、「再お直し」の未然防止策や、「丈や身幅詰め」の分量、「素材の収縮率」が”わからない“といった悩みは、自らの腕の磨き方いかんで、すんなりと解決できるから、たじろがないようにしたい。
 難題事例に遭遇した場合、お客さまの気分を害することなく、「どこまでお応えできるか?」は、経費面も含めて、各百貨店に共通する重点課題の一つである。
先の 銑イ傍述させていただいた実例は、氷山のほんの一角にすぎない。例えば一級の資格取得者でも、先の事例に自信をもって対応できるパーソンは一握りだと思う。

 ◇ うるわしい接客の達人たち

 今までの2級審査にのぞみ、惜しくも選にもれた方の中には、実力がありながら、共通の「ものさし」であるはずの実技審査で、持てる力を充分に出せなかったケースがある。
 例えば某百貨店のA子さんは、次の資格取得審査を受ける順番を待ちながら、2級講座で習ったことを実務に生かしてはりきっている。
 実務の場で、「どちらのサイズにしたら良いか?」と悩まれていたお客さまに、各パーツに必要な、適正量の「ゆとり=ゆるみ」をアドバイスしたところ、喜んで購入していただけたとのこと…。
 各方面から伝え聞くところによると、実技審査のサンプルが、「ジャケット」「パンツ」「スカート」の3タイプあって、どれに当たるかは、その場になるまでわからないそうだ。審査する側にも、それなりの考えがあってのことだと思うが、各アイテムの難易度は、私の経験からするとまったく異なる。どの部分が「共通のものさし」になりうるのか?
 例えば「商品装飾技能士」の検定では、「3級、2級、1級」の技能判定をする場合、その年ごとに出題される課題は一つである。…ある年の2級技能では、「何色かの靴下で、バラのコラージュを作ってください」とか、1級審査では「クリスマスギフトの、ラフスケッチを、何分以内に描いてください」というふうに共通課題での審査が実施される。
 このところバッジを胸に輝かせながら、売り場を走り回っているパワフルなスタッフからお便りをいただくことが多い。
 B子さんは、「フィッティング&スタイリング」の技をもっと活かしたいからと、忙しい売り場への移動を申し出たり、C子さんは、「特技が生かせる商品を扱いたい」と名乗り出てくるなど、うるわしい社員が増えつつあるのは朗報だ。
 いずれにせよ、課題や改良点がないわけではないが、プロセールス資格制度が、ポジティブな流れを形成しだしたことは、お客さまにとってもうれしい限り…。
 本格的な、秋のおしゃれ商戦に、「ゆとり」と「自信」をもって、おもてなし空間のプロデュースができるよう、以下に模試(省略)を作成。お試しください!
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