4月から第2フィールドがスタートした、百貨店プロセールス資格制度の「フィッティングアドバイザー・レディス」は、博多地区(6月24日)での講座をもって、2級の全講座を修了させた。
 1ヶ月後の7月末から、2004年度上期講座の受講者をメーンに、2級の資格審査が実施される(1級は年に1回)。
 今回は、福岡会場(7月30日)からスタートし、大阪(8月2、3、9日)、東京(8月5、6、11、12、13日)、北海道地区(8月17日)と合計10回の審査が行われる。
 講座修了の直後から、1ヶ月余りで受験するメンバーと、3ヶ月経過のメンバーとでは、売り場での実務トレーニングを積める期間にバラツキも出そうだ。
 皆さまのお手元に、今号が届く頃は、審査もたけなわの中盤にさしかかっていよう。

◇ ディスクローズのすすめ

 百貨店協会が、人材育成事業(今後は、シューズやギフト関連も参画予定) の一環として、最初にスタートさせた「フィッティングアドバイザー」制度は、ようやく、関係各方面には浸透し、理解度も深まってきたようだ。
 しかし一部の百貨店では、予算面や、受講させるスタッフの選考規準で、迷いや惑いが発生しているケースも、聞こえてこないわけではない。
 また、各々の百貨店本部の思惑とは裏腹に、支店によっては、リーダーやトレーナークラスの社員から、「すでに、トレーニングやコーチングを徹底的に努めてきた」とか。
 「今のところ、部下を送り込んだ後の人員を確保できない」という切実な声も伝わってくる。
 一方、お取引先や外部のアパレルメーカー、ブランドの数社からは、現時点の市況や業績をふまえると、「1人のスタッフに、そこまでの経費を捻出できない」「我が社では、すでに、そのような教育は実施済み」といった覚めた反応も少なからずある。
 しかしスタートしたからには、この制度を成功させ、定着させなくてはならない。
 こういったネガティブな声に対しして、資格制度の「主旨」や「重要性」を理解していただくには、コツコツと実績を積み重ねながら、お客さまからの支持率の向上に努め、実証していくことが望まれる。
 それには、まず制度のしくみや審査内容を広くディスクローズして、「主旨や意義」に賛同、もしくは興味を抱いていただくのも一案だ。
 具体的には、審査状況や実施済みのテストを公開することで、送り込む側も、より適任な人選をすることができよう。
 一方、もっと外部企業からの支援が得られれば、「自己負担でもいいから、チャレンジしたい」という、意欲的なスタッフや、「経費の一部を企業が負担しよう」といった、積極的なケースが増える可能性も高まろう。
 今のところ、今夏に実施されている認定審査に関する、筆記や実技テストの詳細についても、資格制度推進協議会の方向性は、第1回目と同様に外郭のみの発表となっている(今春に出題されたテストの内容、その他は不透明)。
 この制度が、ユーザーにも認知され、より権威あるものになるためには、実施済のテストなど、公開の場が必要であろう。
 また、事前に出題内容や審査内容の説明を受ける機会があれば、不明確な点には意見を述べ、修正すべき点があれば、助言をさせていただくこともできよう。
 お預かりした受講生の全員が合格することを、関係者は願っておられるはずだ。
 しかし、2級講座で20時間を費やして学ぶ内容は、資格を取得するためはもちろんであるが、「商いの現場」で役立ってこそのものでもある。 したがって、スタート当初の、「ゴールイメージ」を達成するために、軌道のブレがあれば、講師陣を集めてのミーティングも可能だ。
 前回の審査報告と、今夏用に配布された、審査案内概要との数枚の紙に記載されていた事項を熟読した後、気づいた事項に関しては、受け皿の一つである窓口に伝えることはした。

◇ 技術審査時の留意点

  フィッティング時に、服のプロや技術の達人は、裾を引っ張ったりのしぐさをしない。
   そのようなアクションは、減点の対象。
  身幅のゆとりチェックは、バストの実寸に対して、何僂痢屬罎襪漾廚適量であるかを提示。
  フィッティング時のチェック項目に記載されている、「しわ」とは、何を指すのか不明確
   (的確なフィッティングは、身体の中心と、服の中心とを整えることが前提…それでもシワが
   残っていれば、服のパターンとボディラインとの不釣り合いが考えられる)。…他

◇ 本末転倒にならないために

 「出し詰め」が正確にできるという技術審査の判断基準が、「サイズの詰め出し」寄りにシフトしないよう注意する。
 プロとして「精度の高さ」を競うのであれば、以下の点に着目しての、技術審査の進行が望ましい。
  技術審査用のアイテムを統一させる。…アイテムによって、難易度がまったく異なる。
  出し詰めの判定は、形で終わらせない。…身体の各部位に必要な「ゆとり」や「運動量」、「デザイン上
   のゆるみ」は、服のしくみを熟知した実務年数が豊かな人物や、プロのパターンナーであっても、適量の
   ジャッジには緊張を強いられる(洋裁学校や服飾関連の学校で学んでも、仮縫い経験が乏しいと困難)。
  プロの技術水準を判定するための優先順位は、パンツ(股上の深さや、ローウェストもしくはストレートか、
   ブーツカットかなどというデザイン上の特性が、他アイテムより豊富なために難易度が高く、股下寸法に
   関する再お直しが多発している)が一押しアイテム。
 いずれのアイテム(ニット類を除く)も、身体の各部位に加味された、「ゆとり」なしでは、「着心地満足服」などあり得ないから、フィッティングアドバイザーには、各パーツに施されている「ゆるみ」を熟知した上での、シルエットを損なわない技能力が不可欠。
 過去や今現在、売り場で多発しているお直し関連のクレームで、担当スタッフが、服の「ゆるみ」を理解していれば、未然防止できたケースは後を絶たない。
 プロなら、安易なお直しは極力さけ、スタイリング提案で喜んでいただけるような力量を兼ね備える必要がある。
 単なる、サイズの「詰め出し」作業なら、ヤル気があればどなたにでもできる。

◇ スタイリングのセラピスト

 欲しかった服に出会え、それが、「マイ・グッドサイズ」に適した着心地の良い作り…そして、「おもてなし」をされた後の余韻が、他店とは格段と差のあるステキな「時間消費」であったら、購入した喜びは倍増し、多くの人々は心身共に快適に満たされるであろう。
 TPOにふさわしい、もしくは「変身願望」を満たしてくれるような服を着ることによって、心理状態はプラス方向に動くのである。
 「フィッティングアドバイザー」も、服を扱う他のスタッフも、「スタイリングのセラピスト」としてのお手伝いができたら最高だ。
 また、近頃人気の「カラーセラピー」とは、色が及ぼす心理効果を、暮らしや仕事に有効に生かすことを意味している。(「セラピスト」とは治療士・治療者の意味合い)
 また、イメージコンサルタントの発祥地は、アメリカ説が有力。かたや、欧米(特にイギリス)では、「ファッションセラピー」が大人気だという。「心身共に癒される」「明日への活力が湧いてくる」「自分にとってのカンフル剤になる」「自信を持って仕事に励める」…そんなミッションを抱きながらのスタイリングのお手伝いは、スタッフにとっても仕事への意欲が倍増する。
 今後は「レディスの2級講座」に、男性社員が積極的に参加されることが課題の一つだ。
 いずれは管理職を目ざすにしても、「MD」・「バイヤー」・「販促部門」が希望だとしても、「婦人服」と女性の「身体のメカニズム」を熟知しておくことは、消化率の良いマーチャンダイジングの構築に大いに貢献できる。
 過去に「ボディフィッター」関連のセミナー修了後に、百貨店や著名SCの婦人服バイヤーから、「婦人服のことを知っているつもりが、知らないことがいっぱいあった」というお声を何件もいただいた。
 ちなみに、私担当の日本繊維新聞社主催の公開セミナーには、服飾専門学校の講師、著名アパレルメーカーのセールスコーディネーターや、専門店のパタンナー、バイヤー、プロのカラーアナリスト、そして販売スタッフと、多彩な顔ぶれが参加いただいている。
 プロになればなるほど、現場の「生情報」がもっと欲しくなり、実学の引き出しを増やしたくなるようだ。

◇ 制度から目が離せない
 
 頂戴した職務(2級講座の講師)に専念していれば、エネルギーは少なくて済む。しかし、誌上で様々な甘口・辛口の提案をさせていただいてきている背景には、以下のようなごく私的な理由が…!
  本制度は、日本サービス・流通労働組合(JSD)との労使懇談会が提案元である。が、その前々段階の
   「ひな形」ともいうべき「カリキュラム」と「システム」づくりに関しては、某百貨店で7年間にわたって、
   研修・育成・審査官(社内認定資格)に関与させていただいた。
  今期の2級指定講座である7校(各百貨店の傘下にある)のうち、1社を除いた6社で、過去に「フィッティング
   アドバイザー」関連の研修を担当させていただいた。
   また、A・D・O関連のセミナーでは、限定アイテムでのフィッティング講座を務めさせていただいた。
  衣料業界へのリテール・サポートの一環として、2002年の春から、「服のボディフィッター実践講座…
   インストラクター養成コース」の公開セミナーを、先の新聞社主催で開催し続けてきている。(今夏は
   第6回目となるが、8月23日東京、8月25日に大阪で開催)
   こうして振り返ってみると、89年以来、アパレルメーカー、百貨店・SCなどで、ダイレクト、もしくは
   教育企画会社からの要請により、既製服の「フィッター」を育成する活動に努めてきたことになる。
 そのような背景から、賛同できる主旨のシステムがあると目が離せなくなってしまっている。
 いずれにしても、既製服に関する「補正知識・技術」は複雑で、「修理室」「加工室」「アトリエ」といったセクションの「技術力」もからんでくるからもっと微妙なことになる。
 売り場で多発する難題事例に、たくさん遭遇してきた分、「技術部分」のことには、人一倍敏感になってしまうようだ!
Copyright(C) DOMINANT LIMITED All Right Reserved.
【無断転載使用不可】