従来独自の方法で、各百貨店の大半が取り組んできた「接客のプロ育成」という、古くて新しい課題への画期的な試みを、百貨店プロセールス資格制度(労使共同…JSD・日本サービス・流通労働組合連合会も支援)という形態で、日本百貨店協会がスタートさせた。

◇ 選択肢豊かな研修カリキュラム

 プロ集団育成の第一弾は、「フィッティングアドバイザー制度のレディス…2級・3級」で、昨秋の9月から順次に実施された。
 3級は、通信講座(課題の提出と採点→基準に基づいた修了証の発行→3ヶ月後に審査レポートの提出)による受講と解答の添削によって行われる。
 2級講座に関しては、(A)株式会社 センチュリーアンドカンパニー(株式会社 高島屋グループ)と、(B)学校法人松徳学園 東京ファッション専門学校(株式会社 松屋グループ)と、(C)株式会社プロネット(株式会社 三越グループ)の三校が受け持ち(昨年の12月時点)、各々の指定講座は、日本百貨店協会が定めるところの、設定レベル・単位を踏まえた独自の研修内容を打ち出している。
 たとえば、(A)講座の特色は、「顧客心理」を汲み取った「ニーズチェックとフィッティング」に基づく「コンサルティングセールス」、(B)講座の特色は、「服の工程とドレーピング実習」や「ファッショントレンド」と「マーケット分析」、(C)講座の特色は、「服のしくみと身体のグッドバランス」や、「プラス発想のスタイリングと体形別補正」、「実例に基づくクレーム未然防止策」…などという具合に、各々の強みを生かした内容となっている。したがって、自己のキャリアや、売り場特性にふさわしい選択が可能だ。
 いずれも、プロ中のプロを「ゴールイメージ」とする1級の資格習得に向けての、前段階である2級試験に合格できるよう、専門性の高い「知識&技術」を盛り込んだカリキュラム編成となっている。

◇ CS(顧客満足)の向上は、ES(従業員満足=Employee Satisfaction)から

 これらの制度開始前から、販売職の資格習得への取り組みは、さまざまな背景のもとに急速な高まりを見せていたが、2級講座開講を機に、あらためてそれらの本質とゴールについて考えてみることにした。
 販売職を担う者にとって、お客さまとの接点である売り場は、まさに「顔で笑って、心で泣く」ことも出てくるという、結果がすぐにはね返ってくる戦いの場だ。
 スタッフの各自が、持てる才能を最大限に発揮して、「最高のおもてなし」に徹することができるのは、「身体と心の健康状態」が万全な時である。
 資格取得の究極の狙いは、言うまでもなく「販売力」と「CS(顧客満足)」の向上だ。
 しかしながら、資格の取得後に、それらを職務に活かしつつ、実学として、どのようにお客さまの元へとフィードバックさせるかは、各個人の力量次第であり、熟成度と応用力、そして周囲のバックアップ体制にかかっている。
 資格を取得することのメリットは、インセンティヴの高揚がプラス方向に働くことにより、売り場の活性化につながることで、ゆとりある接客応対ができて、お客さまが「かゆくなる」前に、手をさしのべることができよう。
 学んで習得したことによる自信は、日々の業務を充実させ、やりがいのあるものにするから、その姿勢から放たれるオーラは、リピート率を高めてくれる威力がある。
 また、習得した「知識や技術」は、実体験を積み重ねて、検証・修正の繰り返しをすることで、本物となって各自の心身と一体となる。そこにハートフルな接客応対が存在していることを前提として…。

◇ フィッティングアドバイザーとフィッターとの関連性

 ここ数年来の間、「○△□フィッター」なるものが急増した。今現在「登録商標」の認定済、もしくは「出願中」のケースは、2000年には、約40であったものが、50項目を越えているようだ。
 欧米の老舗メゾンのいくつかでは、既製服の「フィッター」が大活躍している。
 本来、「フィッター」のルーツは、注文服での「仮縫い師」。
 クチュール店にいる元祖「フィッター」とは、フランス語の、「クチュリエ(男性)」もしくは「クチュリエール(女性)」のような職種で、デザインから縫製までの一切をする人の名称である。…例えば、「ピエール・カルダン」や「イヴ・サンローラン」などがそれらの代表格。
 衣服以外のフィッターは、馴染みの「シューフィッター」から「ピローフィッター」「ヘアフィッター」など他と、様々な分野でフィッターが活躍している。
 さて、「フィッティングアドバイザー」と、既製服の「フィッター」との関連性だが、「効率の良い商い」を営む上で、後者のニーズが今後さらに高まると予測している。
 私自身は、FA職の頃から、その使命を痛感し、すでに1989年頃から各種のメディアを借りて、(「ボディフィッター」という名称で)訴え続けてきた。
 その根拠は以下の通りである。
 既製服は本来、「お直し無し」が前提であるが、
 仝従?売り場の在庫高(数量)に制約がある。
◆々馥眄宿福▲ぅ鵐檗璽班?■味魅汽ぅ此淵函璽襯汽ぅ佐沺砲鯡笋錣此∋埔譴僕諭垢淵侫ルムの「サイズ→服」が
  出回っている。
 お客さまの体形・体型や体格、ゆとり加減のお好み(フィット感)は千差万別である。
ぁ”?離妊競ぅ(色・柄・素材・シルエット・パターン)の変化が著しい。
ァ。達腺帖淵灰鵐團紂璽燭砲茲襯僖拭璽鷓鄒)による服の型紙が普及したことによって、見た目には美しいが、
  運動量や機能性には、未だ技術者の目が届かない点があり、未整備部分がある。
Α/形悩爐粒発が進み、クリーニング後に、予想をはるかに越える収縮率の問題が多発。
А/縮性のある素材開発(表地・裏地とも)の急伸によって「ジャストサイズ」と「グッドサイズ」の見極めが
  困難になってきている。
─仝従?慮楜匸霾鶸浜?任蓮売れ筋・死に筋、もしくは売りのがしサイズはコンピュータに記憶させられるが、
  「どこを、どのように、何儺佑瓩拭⊇个靴拭廚覆匹両霾鵑鯑?呂垢觴蠱覆確立されていな い。…など他。
 また、以下のような問題も浮上してきている。
 百貨店や、高額ゾーンの既製服に対して、お客さまがオーダー感覚の醍醐味を期待する傾向が強まっているために、
 ”?痢峭程」や「しくみ」を知らないスタッフが、安易に必要以上のお直しを承った結果、元のイメージが
  損なわれて再お直しが多発し、修理費を圧迫している。
◆‘釗垢陵住擦鮹成したいがために、手持ちの服で、「サイズ調整」を超えた「リフォーム」の範疇(はんちゅう)
  とも言えるお直し承りをするケースが多発している。
 おしゃれ上手な、もしくはハイセンスで洋裁の専門知識・技術に詳しいお客さまに対して、売る側が、たじ
  ろいでしまい、信頼感や安心感を抱いていただけない。…など他。

一方、販売スタッフ側が、肌で感じている不安材料の主だった点は、以下の通りである。

 .爛世覆直しを減らすには、服の各パーツに施されている、技術や工程の、どこを知ると自信が持てるか?
◆仝気離轡襯┘奪箸鯊擦覆Δ海箸覆、サイズ調整を承るには、各パーツに何僂里罎箸蠅鮖弔靴討けば良いのか?
 ご要望にかなったスタイリングやフィッティングのお手伝いは、どのようにしたら信頼していただけるのか?
  …など他。
 以上のような課題があるとはいえ、百貨店協会の「フィッティングアドバイザー制度」には、お客さまと、販売スタッフの双方から大きな期待がかけられているようだ。

◇ 期待に応えるためのキーワード

 キーワードは、「○○百貨店の□□売り場にいる、あなたの呼びかけに、何人が会いに来て下さるか?」…つまり「心・知・技で服を販売できるスタッフ」が、「どれ程存在するか?」の見直しと育成に、勝敗がかかっていると言っても過言ではない。
 そうすることが、「資格制度」の精度を高めるための、最初の「砦(とりで)」とは言えまいか?
 際がない時代に際立つには、 屬箸めく商品」、◆屬もてなしの心得」、「魅惑の空間演出」の見直しは必須課題である。
 △紡阿垢襦屮侫ッティングアドバイザー」とは、「着心地の良い、美しいシルエットの値を見つけられるエキスパート」「お客さまのプロポーションを、魅力的に際立たせることができる、プロ中のプロ」そして、「ジャストサイズと、グッドサイズの双方を見つけるお手伝いができる商人(あきんど)」が、究極の「ゴールイメージ」と言えまいか?

◇ 体得したものは接客やMDに活かす

 2級資格取得者の、ゴールイメージの設定は、 崗ι蔽亮院廖↓◆屬直し技術」、「接客」の各々が、万能なレベルとなっている。
 取得後、もしくは講座受講後は、各々の項目を上手にリンクさせて、各スタッフの個性を輝かせることが望ましい。
 例えば、,亡悗靴討蓮◆屮屮襯哨鵑肇献礇鵐僉爾琉磴ぁ廚鮗遡笋気譴燭蕁◆屬匹ε悊┐蕕譴襦廚が重要で、おしゃれなウィットに富んだ「体話(たいわ)」をたくさん用意したい。
 △亡悗靴討蓮△直しを増やすような「カン違い」は言語道断。三ヶ所を直していたら二ヶ所、二ヶ所を直していたら、「スタイリング提案のみでご納得いただけるにはどうすべきか?」を研究する。
 に関しては、いくら接客応対が上手でも、販売力がなければ身もフタもない。「作り手のこだわりと商品の魅力」を的確に語れる説得力を身につけることが望ましい。…笑顔やおじぎはTPOに合わせて臨機応変に対応する。
 肝心なことは、お客さまが心を開いてくださるような誠実な「しぐさ」と、柔らかな表情だ。…反面教師は、「表情筋や口元」は笑っていても「瞳が笑っていない」ケース!
 金太郎飴のようなマニュアルどおりの接客は、かえって不満の火種をくすぶらせる元になる。
 「心くばり」のある、商いの「生き字引き」になることが、すべての課題を超えてロイヤルティの向上につながる道であることは、誰しもが分かっていよう。

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