その9
今日は梅雨の中休みというか、思いっきりはしゃぎたい気分になりそうな澄み渡った青空なのに、
僕は冬のどんよりとした曇り空のような、重い気分だった。
一方的かもしれないけれど、僕と川内はちょっとしたライバルだった。
あいつはスポーツもできるし、女子にだって人気がある。
おまけに人を楽しませる能力というか、才能というか。
僕にないものをあいつは持っている。
ライバルにするにはかけ離れているかもしれないけれど、僕は川内だけには負けたくなかった。
特に勉強では。
これで川内に負けたら、僕には何がのこるんだろう。
僕は、真の敗北者になってしまうのではないのだろうか。
そんなことばかり考えていて、一日中ボーっとしていて、授業になんか力が入らなかった。
大好きな数学の時間だってそうだった。
「おい!小林!」
東先生の声ではっと気づく。
ま、、まずい。
正直、何を聞かれているのかすらわからない。
このシーンと静まり返った重い空気。
からだ全体から、血の気が引いていくのがわかる。
刻々と秒単位で先生の顔色も変っていくようにみえて、もう泣きだしたくなったそのときだった。
「導関数の定義だよ」
後ろの小松のがささやきいてくれた。
おお!こいつはマジで神様だ!おそらく生きてきた中で一番の神様かもしれない。
でも・・・
導関数の定義??はぁぁ??
何だろう、これ。確かにやった。でも、でも、そんなものは僕の頭の中では相当奥の圧縮フォルダに入っていて、
そいつを解凍するには解凍ソフト、いわゆる「ニューアクションω」がどうしても必要だったのだ。
たはぁぁぁぁぁ。
だめだ。完全にショートだ。フリーズしていやがる。
僕は最終手段を使うことにした。
「わ・・・わかりません。」
小さくて、すまなそうに、ぼそり。蚊の鳴く声というのは、まさにこのことだろう。
・・・フリーズ。
あきれられたのか、もう先生は無言のままだった。
はぁぁぁ・・・
僕は、いったい何なんだ。自分の情けなさに、どうしようもない悔しさがこみあげてきて、僕はさらに落ち込んだ。
長い長い授業が、やっと終わったころには、青空にはいつの間にか黒い黒い入道雲が広がっていた。
もうじき夕立が来るんだろう。
あーあ。雲になりたい。
そんなことを考えながら窓際に佇んでいたら、隣から声がした。
この面長な顔に、この背の高さ。
川内だ。