国際放射線防護委員会(ICRP)では原爆などの人的被害から放射線被曝に
関する制限や勧告をだしています。最近では2007年に更新されました。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/housha/sonota/__icsFiles/afieldfile/2010/02/16/1290219_001.pdf

それによると致死的な癌、および遺伝子的な影響の長期的リスクを以下のように評価してます。
肺 :0.85%/Sv
骨髄:0.50%/Sv
皮膚:0.02%/Sv
食道:0.30%/Sv
致死がんの合計:全体で5%程度(低線量被曝の積算1Svあたり。1990年勧告)


2007年勧告では致死がんと非致死がんをまとめる形で(死亡に相当する損害を)、
全がんに対して:5.5%/Sv
遺伝的影響  :0.2%/Sv と修正されてます。


ひとつ重要な点を言うと、自然放射線程度の弱い被曝について有意な発ガンリスクは
確認されていません。たとえば地震前のように
「1時間あたり0.05マイクロシーベルトμSv/hであれば問題はない」と思われています。

色々議論はありますが、これくらいなら幾ら積算しても大丈夫かも?と仮定してます。
発ガンはしても人体の免疫力で処理できるレベル、、、という事なのかも知れません。


ところが今日、福島第一原発から100km離れた茨城県東海村で1μSv/hを超えました。
20倍です。これくらいだと修復が追いつかず「有意に」発ガンに寄与するかも知れません。
放射線量 :1μSv/h
1ヶ月滞在:約700時間
健康リスク:6%/Sv
とすると、長期的に癌になる確率は:1μSv×700時間×6%=0.004%程度です。

「胸部レントゲンが一回50μSvなので、それに比べると小さい」とテレビでは言います。(注1)

ですが原発などの広域災害の場合は解釈は異なります。
多数の「生きてる人間」が被曝するからです。


同じ条件でも仮に10万人が被曝すると、
(致死的癌を)発ガンする人数は、0.004%×10万人=4人程度となります。
10万人を非難させる苦労よりは4人くらい癌で死んでもかまわないという
理屈に基づいて「ただちに健康には影響しないので冷静に」と報道されます。

今回の事故は多発型ですし処理も大変ですので長期化するかもしれません。
仮に1年程度こういうレベルで増減するようですと「10万人中、50人」です。
少し微妙になってきますね。でもこれぐらいもやっぱり我慢しましょうか?

問題は30km圏内です。距離の2乗で線量・粉塵が増加すると仮定すると
100km離れた東海村に比べ被曝量は「10倍」となります。平均10μSv/hぐらいですと、

1ヶ月滞在で:10万人中40人の健康リスク
1年滞在で :10万人中500人の健康リスク
と見積もられます。
この状態が長期化するようなら退避を考慮すべきと思います。


特に妊婦(胎児)や幼児は比較的放射線リスクが高いですし、
平均余命も長いですので、長期の不利益は無視できないと私は考えます。
(テレビの解説では大丈夫とのことですが、、、)
(注2)

今朝、大慌てで(まだ壊れてなかった)iPhone4から記事をアップしたのは
こういう見積もりに基づいています。30km以遠~100km以内の方は個々人でご判断下さい。

テレビの解説では敷地境界外側で1mSv/hでも問題ないと放送していましたが、
これは原子核や炉工学実験では普通に「管理区域」となる値です。なぜなら
「1ヶ月滞在した場合10万人あたり4000人程度に健康被害の恐れがある」からです。


注1:ICRPの2007年勧告では0.05μSv/h程度のバックグラウンド低線量についても
   人間の健康を守るとの観点から「直線・しきい値なし評価」を採用しています。
   ですが、低線量付近では(おそらく生体防御の寄与が期待されであろうから)
   過大評価になるであろう、との判断で疫学的な調査に用いるのは禁止しています。
   つまり1μSv/h位にこの比例則を用いるのは過大評価である可能性はあります。が、
   私や私の子供の命は個人的には比較的優先度が高いので安全サイドに考えています。
   
   今優先すべきは「疫学的調査の正確性」ではなく
  「人間の安全を守る為の放射線防護」だと考えます。


注2:「積算被曝量が100mSvを越えない限り胎児を含め健康被害はない」との意見が
   散見される様になりましたが、それは急性障害をもたらすような「確定的影響」
   についてだと思われます。事故現場で作業している人達に用いる尺度であって、
   広範な被曝による長期的なリスク(発がんなど)については「確率的影響」で
   評価されるべきだと思います。

   (テレビやネットではこの2つが混同されて議論されていると思われます。)