日経メディカルオンラインの2010年12月27日付記事
「特別リポート:N・SAS試験
がん化学療法を変えた臨床試験の記録」
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/cr/201012/517574.html
で無理やり正当化されている「N・SAS-BC01試験」は国内の抗癌剤治療、医療行政、癌報道
の悲惨さの具体例だと思われる。また乳がん患者団体「イデアフォー」との噛み合わない
論争は臨床試験と患者・患者会の関係を再検討する「歴史的遺産」とも言える。
歴史的と言っても戦前の満州やアウシュビッツではなく、僅か15年前の日本での出来事です。
ーーーーーーーーーーーー「N・SAS-BC01試験」事件の経緯ーーーーーーーーーーーー
きっかけはソリブジンという別の薬害事件です。
・1993年9月3日:帯状疱疹の薬(抗ヘルペスウィルス剤)ソリブジンが発売される。
発売後1ヶ月足らずで5-FUとの相互作用で重篤な副作用が発生
・同 10月2日:「7人に重篤な副作用、3人が死亡」と報道発表。同3日出荷停止。
・同 10月8日:厚生省から緊急安全性情報の配布
・同 11月1日:自主回収開始(承認取り消しはされなかった)
結果23例で副作用発現、うち14例で死亡
日本商事(現アルフレッサ)、エーザイの両販売元である役員や社員が副作用発生から
発表までのタイムラグを利用して自社株を売り抜けたインサイダー取引で問われる。
(余談ですが、この事件のせいか?「帯状疱疹になると化学療法できない、、」的な迷信が
広まったらしく、世の中にはまだある様ですね、、、笑)
という薬害事件が起こり1994年9月号の「ネイチャー」で国内の臨床試験のあり方を指摘される。
その結果1984年以降莫大な売り上げと効果が疑問視されていたUFTの再検証を行うことになった。
ーーーーーーーーーーーー「N・SAS-BC01試験」の問題点ーーーーーーーーーーーーー
1996年10月より厚生省の研究事業として抗癌剤市販後研究班
(阿部薫 現国立がんセンター名誉総長が首班)
乳がんとりまとめ渡辺亨委員長(現 渡辺医院浜松オンコロジーセンター)
らが計画・解析し2009年3月にJournal of Clinical Oncologyに掲載されました。
Oral Uracil and Tegafur Compared With Classic Cyclophosphamide, Methotrexate, Fluorouracil As Postoperative Chemotherapy in Patients With Node-Negative, High-Risk Breast Cancer: National Surgical Adjuvant Study for Breast Cancer 01 Trial
内容は、
「ほぼ日本でのみ、それも明確な根拠も無く長年使われ続けてきたUFTですが、2年くらい
飲み続ければリンパ節転移の無い早期乳がん術後の再発防止に多少は役立つかも」という推測。
・厚生省が発案し、
・国立がんセンターが中心となり、
・全国47の拠点病院の倫理委員会に諮り、実施され、
・日本乳癌学会会長の芳賀駿介 日本医科大教授に絶賛され、
・大鵬薬品工業や全国のUFTを使いたがる医師の営業的延命に大きく貢献した、
この論文の問題点を「死にかけの一癌患者に過ぎない」私の理解の範囲で記載してみます。
1.論文を読む以前の問題
・1995年度、1996年度の2年間は厚労省の研究事業であったが1997年4月以降の登録、解析は
販売元の大鵬薬品工業が市販後臨床試験として担当。733人の登録患者のうち600人以上が
大鵬薬品側の管理になってからの登録。
→新規薬剤の臨床試験を製薬メーカーが主導するのはあり得ることだが、本件の様な
薬剤の「耐震偽装疑惑」の検証に開発・販売元が関与するのは客観性の面で不適切。
・1996年当時の理解でも術後補助療法の第III相試験をUFT単剤で実施するには根拠が脆弱。
(そもそもまともなエビデンスが無いのが問題視されたのだから当然と言えば当然、、笑)
試験開始時以前の、本論文の参考文献で乳がんに関するもの2つを示すと、、
参考文献3
Cancer Chemother Pharmacol. 1988;22(4):333-8.
Report on nationwide pooled data and cohort investigation in UFT phase II study.
Ota K, Taguchi T, Kimura K.
Aichi Cancer Center, Nagoya, Japan.
1980年代の国内104施設の438患者についてUFTの奏効率を集計した後ろ向きコホート研究。
膵癌、乳癌の「反応率」が25%、32%など驚異的。例えば現在、膵癌に唯一効くかもしれない?
とされるジェムザールでも25%で「なんとか症状が改善される?」というレベル。
乳癌におけるパクリタキセルでも奏効率25~33%程度であることを鑑みると、たとえば
「縄文時代の遺跡を調べたらiPodナノが発見されました、、」というレベルのはなし。
参考文献8
Jpn. J. Clin. Oncol. (1994) 24 (4): 212-217.
A Double Blind Comparative Study of Tegafur (FT) and UFT (a Combination of Tegafur and Uracil)
in Advanced Breast Cancer
Hideya Tashiro, Yasuo Nomura and Akihiko Ohsaki
Department of Breast Surgery, National Kyushu Cancer Center Fukuoka
1986年から1989年までの60人の患者をテガフールとUFT群に分けて奏効率を比較。
進行乳癌においてUFT単剤の奏効率が39%という「古墳からiPhone4が出ました」的な論文。
→行うとすれば被験者の安全を担保しうる「信頼性のあるレジメン」vs「そのレジメン+UFT」
などの「上乗せ効果」を検証する試験にすべき。
→また渡辺氏が説明するように「科学的な国内臨床試験の道筋をつける」のが本研究事業の
目的だとしても危険性の低い「上乗せ型の第III相試験」もしくは第II相試験の「信頼性の
高い追試」のいずれかを行うことで臨床試験のモデルを充分に構築・検証することはできる。
・そもそもUFTは効果や信頼性が低く、その疑問を検証する為にスタートした事業です。
少なくともUFTより遥かに効果が高く、かつ信頼性の高いデータに裏付けられた
パクリタキセルが1999年2月に国内で乳癌に承認された時点で、本試験は中止される
べきだったと考えます。この時点で高リスク患者はAC+パクリタキセルなどの
より確かなメンテナンスを受けるチャンスがあった訳ですから本試験は参加者の
利益を明らかに損ねてると言えます。
→被験者の安全性を考慮したり、あるいは被験者が集まらずIII相試験が中止になるのは
何も恥ずかしいことでは無い。むしろその勇気は讃えられるべきことと考える。が、
本試験では後発薬がでても、また予定された被験者が確保できなくてもゴリ押しされた。
被験者の命を軽視しているとの批判は免れないし、他の公共事業と同様に国が始めた
事業は決して止められないことの悪い例だと思える。結果として臨床試験として
最悪のケースになったと言わざるをえない。
・そもそもCMAという当時としても古いレジメンと比較すること自体疑問。
2.論文の中身で指摘すべき点
筆者らはUFTがCMF療法(シクロフォスファミド+メトトレキセート+フルオロウラシル)と
同等の効果であることが確認されたので結果オーライでした、、。と主張するかもしれません。
が、本論文にはその内容にも以下の様な疑問点があると思います。
・被験者のプロファイルを見るとUFT群352人、CMA群355人に対し、、
UFT群では比較的高リスクな浸潤性乳管癌が14人も少なく
UFT群では比較的高リスクな核異型度グレードIIIも14人も少なく
UFT群では比較的低リスクな2cm以下のT1が19人も多く
UFT群では比較的低リスクな乳房温存術後の放射線例が3人多い。
→そもそも5年無病再発や全生存率が85%~90%の水準の事象で、
3%とか(10人程度)が多いか少ないか?を議論する試験にしては偏りが大きく感じます。
各リスクファクターのウェイトを規格化したのなら係数を示すべきですし、
このように殆どの因子で「良い感じ」にUFTが有利に仕込まれてるプロファイルを
医療関係者の皆さんは素直に「無作為抽出」と考えるのでしょうか?
・各群に80人以上含まれる「温存術後の放射線治療」群の照射プロトコルについて
記載がありません。
→治療装置や照射範囲(マージン)、総線量、分割回数はどのように評価し
振り分けたのでしょうか?もしも私に「無作為に」抽出させてもらえれば、
恐らくUFTが5%勝つ結果も5%負ける結果も、あるいは引き分け、も
自在に調整できる自信があります。(笑)
・n数が足りなかったとはいえサブセット解析のバラツキは不自然に見えます。
→UFT群は3cm以下の群でハザード比0.9(CMFより10%も良い)
UFT群は乳房温存術の群でハザード比0.71(CMFより29%も良い)
UFT群は核異型度IIの群でハザード比0.57(CMFより43%も良い)
と、最初に指摘した不自然にアンバランスな群でどれもUFTが大きく有利な結果
となってます。そもそもなぜ「2cm以下」の群や「放射線治療例」の群に関する
サブセット解析は明記しないのでしょうか?ハザード比で0.5を切るような「良すぎる」
結果になってしまい逆に出せなかったのでしょうか?(笑)
サークル活動やアルバイトばかりで殆ど研究室にこず、卒業間近になって慌てて
書いた学生の修士論文などでこういった恣意的な傾向を示すデータを見かけることが
経験上しばしばあります。
JCOに載ったことを本当に誇りに思うのであれば被験者の個人情報にマスクをかけて
是非、全生データをネットで公開して欲しいと思います。(私が再解析してみます)
ーーーーーーーーーーーー「N・SAS-BC01試験」の教訓ーーーーーーーーーーーーー
本試験は第III相臨床試験としてのデザイン・実施ともに合理性と客観性に欠け、
かつエンドポイントにおけるP値(偶然の誤差が入る確率)が0.5もあり、
95%信頼区間が1.4を越えるなど統計的パワーも足りません。
さらに試験群の振り分けやサブセット解析に恣意的と思われても仕方が無い程の
不自然さと不明瞭さもあります。
最近は随分落ちたとはいえ2009年度の大鵬薬品のUFT売上高は約180億円です。
セットで処方されるユーゼルの年間売り上げは約140億円です。
臨床試験の実際の位置づけやリスクも知らされず、直接的な命の危険にさらされ
参加した被験者の計り知れない損失と、年間300億円を越える医療費のムダ、
そして今後もUFTが非科学的に使用され続けることによる癌患者の危険を
修士の学生がちょろまかしたような論文1本で正当化されているのが国内の
臨床試験と癌治療の現実だと思います。
結局、今後の国内臨床試験が充実したものになる為に私が求めたいものは、、
1.国は年間1000~2000億円の研究費を税金と保険料から捻出する。
創薬と医療で世界最高水準の技術レベルを目指し成長分野に育てる。
2.研究者には世界の誰に突っ込まれても耐えられる周到な調査と計画立案。
研究における公正さ、及び積極性と慎重さの両立。
(その代わりインパクトファクターの高い論文や効果の高い新薬を開発した
研究者には評価に応じて10億円でも20億円でも天井知らずの報酬を用意する)
3.患者(国民)には、なるべく早期からの臨床試験参加の検討。
利益もないのに「念のため」などとUFTなどのムダな処方を望まない。
(非合理的な患者のムダ使いは結局は患者の治療の障害となっている。
勿論「24時間コールセンター」なども求めるべきではないと思います。笑)
などです。今日はもう遅いのでここまでにしておきますが、私はUFTの認可自体は許可
しても良いと思っています。(打率は低いですが利益をもたらすこともあると思います)
問題は抗癌剤を処方する医師の資格と計画・報告等の医療制度の不備だと考えて
います。その件はまた別の記事にまとめます。
「特別リポート:N・SAS試験
がん化学療法を変えた臨床試験の記録」
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/cr/201012/517574.html
で無理やり正当化されている「N・SAS-BC01試験」は国内の抗癌剤治療、医療行政、癌報道
の悲惨さの具体例だと思われる。また乳がん患者団体「イデアフォー」との噛み合わない
論争は臨床試験と患者・患者会の関係を再検討する「歴史的遺産」とも言える。
歴史的と言っても戦前の満州やアウシュビッツではなく、僅か15年前の日本での出来事です。
ーーーーーーーーーーーー「N・SAS-BC01試験」事件の経緯ーーーーーーーーーーーー
きっかけはソリブジンという別の薬害事件です。
・1993年9月3日:帯状疱疹の薬(抗ヘルペスウィルス剤)ソリブジンが発売される。
発売後1ヶ月足らずで5-FUとの相互作用で重篤な副作用が発生
・同 10月2日:「7人に重篤な副作用、3人が死亡」と報道発表。同3日出荷停止。
・同 10月8日:厚生省から緊急安全性情報の配布
・同 11月1日:自主回収開始(承認取り消しはされなかった)
結果23例で副作用発現、うち14例で死亡
日本商事(現アルフレッサ)、エーザイの両販売元である役員や社員が副作用発生から
発表までのタイムラグを利用して自社株を売り抜けたインサイダー取引で問われる。
(余談ですが、この事件のせいか?「帯状疱疹になると化学療法できない、、」的な迷信が
広まったらしく、世の中にはまだある様ですね、、、笑)
という薬害事件が起こり1994年9月号の「ネイチャー」で国内の臨床試験のあり方を指摘される。
その結果1984年以降莫大な売り上げと効果が疑問視されていたUFTの再検証を行うことになった。
ーーーーーーーーーーーー「N・SAS-BC01試験」の問題点ーーーーーーーーーーーーー
1996年10月より厚生省の研究事業として抗癌剤市販後研究班
(阿部薫 現国立がんセンター名誉総長が首班)
乳がんとりまとめ渡辺亨委員長(現 渡辺医院浜松オンコロジーセンター)
らが計画・解析し2009年3月にJournal of Clinical Oncologyに掲載されました。
Oral Uracil and Tegafur Compared With Classic Cyclophosphamide, Methotrexate, Fluorouracil As Postoperative Chemotherapy in Patients With Node-Negative, High-Risk Breast Cancer: National Surgical Adjuvant Study for Breast Cancer 01 Trial
内容は、
「ほぼ日本でのみ、それも明確な根拠も無く長年使われ続けてきたUFTですが、2年くらい
飲み続ければリンパ節転移の無い早期乳がん術後の再発防止に多少は役立つかも」という推測。
・厚生省が発案し、
・国立がんセンターが中心となり、
・全国47の拠点病院の倫理委員会に諮り、実施され、
・日本乳癌学会会長の芳賀駿介 日本医科大教授に絶賛され、
・大鵬薬品工業や全国のUFTを使いたがる医師の営業的延命に大きく貢献した、
この論文の問題点を「死にかけの一癌患者に過ぎない」私の理解の範囲で記載してみます。
1.論文を読む以前の問題
・1995年度、1996年度の2年間は厚労省の研究事業であったが1997年4月以降の登録、解析は
販売元の大鵬薬品工業が市販後臨床試験として担当。733人の登録患者のうち600人以上が
大鵬薬品側の管理になってからの登録。
→新規薬剤の臨床試験を製薬メーカーが主導するのはあり得ることだが、本件の様な
薬剤の「耐震偽装疑惑」の検証に開発・販売元が関与するのは客観性の面で不適切。
・1996年当時の理解でも術後補助療法の第III相試験をUFT単剤で実施するには根拠が脆弱。
(そもそもまともなエビデンスが無いのが問題視されたのだから当然と言えば当然、、笑)
試験開始時以前の、本論文の参考文献で乳がんに関するもの2つを示すと、、
参考文献3
Cancer Chemother Pharmacol. 1988;22(4):333-8.
Report on nationwide pooled data and cohort investigation in UFT phase II study.
Ota K, Taguchi T, Kimura K.
Aichi Cancer Center, Nagoya, Japan.
1980年代の国内104施設の438患者についてUFTの奏効率を集計した後ろ向きコホート研究。
膵癌、乳癌の「反応率」が25%、32%など驚異的。例えば現在、膵癌に唯一効くかもしれない?
とされるジェムザールでも25%で「なんとか症状が改善される?」というレベル。
乳癌におけるパクリタキセルでも奏効率25~33%程度であることを鑑みると、たとえば
「縄文時代の遺跡を調べたらiPodナノが発見されました、、」というレベルのはなし。
参考文献8
Jpn. J. Clin. Oncol. (1994) 24 (4): 212-217.
A Double Blind Comparative Study of Tegafur (FT) and UFT (a Combination of Tegafur and Uracil)
in Advanced Breast Cancer
Hideya Tashiro, Yasuo Nomura and Akihiko Ohsaki
Department of Breast Surgery, National Kyushu Cancer Center Fukuoka
1986年から1989年までの60人の患者をテガフールとUFT群に分けて奏効率を比較。
進行乳癌においてUFT単剤の奏効率が39%という「古墳からiPhone4が出ました」的な論文。
→行うとすれば被験者の安全を担保しうる「信頼性のあるレジメン」vs「そのレジメン+UFT」
などの「上乗せ効果」を検証する試験にすべき。
→また渡辺氏が説明するように「科学的な国内臨床試験の道筋をつける」のが本研究事業の
目的だとしても危険性の低い「上乗せ型の第III相試験」もしくは第II相試験の「信頼性の
高い追試」のいずれかを行うことで臨床試験のモデルを充分に構築・検証することはできる。
・そもそもUFTは効果や信頼性が低く、その疑問を検証する為にスタートした事業です。
少なくともUFTより遥かに効果が高く、かつ信頼性の高いデータに裏付けられた
パクリタキセルが1999年2月に国内で乳癌に承認された時点で、本試験は中止される
べきだったと考えます。この時点で高リスク患者はAC+パクリタキセルなどの
より確かなメンテナンスを受けるチャンスがあった訳ですから本試験は参加者の
利益を明らかに損ねてると言えます。
→被験者の安全性を考慮したり、あるいは被験者が集まらずIII相試験が中止になるのは
何も恥ずかしいことでは無い。むしろその勇気は讃えられるべきことと考える。が、
本試験では後発薬がでても、また予定された被験者が確保できなくてもゴリ押しされた。
被験者の命を軽視しているとの批判は免れないし、他の公共事業と同様に国が始めた
事業は決して止められないことの悪い例だと思える。結果として臨床試験として
最悪のケースになったと言わざるをえない。
・そもそもCMAという当時としても古いレジメンと比較すること自体疑問。
2.論文の中身で指摘すべき点
筆者らはUFTがCMF療法(シクロフォスファミド+メトトレキセート+フルオロウラシル)と
同等の効果であることが確認されたので結果オーライでした、、。と主張するかもしれません。
が、本論文にはその内容にも以下の様な疑問点があると思います。
・被験者のプロファイルを見るとUFT群352人、CMA群355人に対し、、
UFT群では比較的高リスクな浸潤性乳管癌が14人も少なく
UFT群では比較的高リスクな核異型度グレードIIIも14人も少なく
UFT群では比較的低リスクな2cm以下のT1が19人も多く
UFT群では比較的低リスクな乳房温存術後の放射線例が3人多い。
→そもそも5年無病再発や全生存率が85%~90%の水準の事象で、
3%とか(10人程度)が多いか少ないか?を議論する試験にしては偏りが大きく感じます。
各リスクファクターのウェイトを規格化したのなら係数を示すべきですし、
このように殆どの因子で「良い感じ」にUFTが有利に仕込まれてるプロファイルを
医療関係者の皆さんは素直に「無作為抽出」と考えるのでしょうか?
・各群に80人以上含まれる「温存術後の放射線治療」群の照射プロトコルについて
記載がありません。
→治療装置や照射範囲(マージン)、総線量、分割回数はどのように評価し
振り分けたのでしょうか?もしも私に「無作為に」抽出させてもらえれば、
恐らくUFTが5%勝つ結果も5%負ける結果も、あるいは引き分け、も
自在に調整できる自信があります。(笑)
・n数が足りなかったとはいえサブセット解析のバラツキは不自然に見えます。
→UFT群は3cm以下の群でハザード比0.9(CMFより10%も良い)
UFT群は乳房温存術の群でハザード比0.71(CMFより29%も良い)
UFT群は核異型度IIの群でハザード比0.57(CMFより43%も良い)
と、最初に指摘した不自然にアンバランスな群でどれもUFTが大きく有利な結果
となってます。そもそもなぜ「2cm以下」の群や「放射線治療例」の群に関する
サブセット解析は明記しないのでしょうか?ハザード比で0.5を切るような「良すぎる」
結果になってしまい逆に出せなかったのでしょうか?(笑)
サークル活動やアルバイトばかりで殆ど研究室にこず、卒業間近になって慌てて
書いた学生の修士論文などでこういった恣意的な傾向を示すデータを見かけることが
経験上しばしばあります。
JCOに載ったことを本当に誇りに思うのであれば被験者の個人情報にマスクをかけて
是非、全生データをネットで公開して欲しいと思います。(私が再解析してみます)
ーーーーーーーーーーーー「N・SAS-BC01試験」の教訓ーーーーーーーーーーーーー
本試験は第III相臨床試験としてのデザイン・実施ともに合理性と客観性に欠け、
かつエンドポイントにおけるP値(偶然の誤差が入る確率)が0.5もあり、
95%信頼区間が1.4を越えるなど統計的パワーも足りません。
さらに試験群の振り分けやサブセット解析に恣意的と思われても仕方が無い程の
不自然さと不明瞭さもあります。
最近は随分落ちたとはいえ2009年度の大鵬薬品のUFT売上高は約180億円です。
セットで処方されるユーゼルの年間売り上げは約140億円です。
臨床試験の実際の位置づけやリスクも知らされず、直接的な命の危険にさらされ
参加した被験者の計り知れない損失と、年間300億円を越える医療費のムダ、
そして今後もUFTが非科学的に使用され続けることによる癌患者の危険を
修士の学生がちょろまかしたような論文1本で正当化されているのが国内の
臨床試験と癌治療の現実だと思います。
結局、今後の国内臨床試験が充実したものになる為に私が求めたいものは、、
1.国は年間1000~2000億円の研究費を税金と保険料から捻出する。
創薬と医療で世界最高水準の技術レベルを目指し成長分野に育てる。
2.研究者には世界の誰に突っ込まれても耐えられる周到な調査と計画立案。
研究における公正さ、及び積極性と慎重さの両立。
(その代わりインパクトファクターの高い論文や効果の高い新薬を開発した
研究者には評価に応じて10億円でも20億円でも天井知らずの報酬を用意する)
3.患者(国民)には、なるべく早期からの臨床試験参加の検討。
利益もないのに「念のため」などとUFTなどのムダな処方を望まない。
(非合理的な患者のムダ使いは結局は患者の治療の障害となっている。
勿論「24時間コールセンター」なども求めるべきではないと思います。笑)
などです。今日はもう遅いのでここまでにしておきますが、私はUFTの認可自体は許可
しても良いと思っています。(打率は低いですが利益をもたらすこともあると思います)
問題は抗癌剤を処方する医師の資格と計画・報告等の医療制度の不備だと考えて
います。その件はまた別の記事にまとめます。