がん放射線治療の将来計画を試案する為、先ず外部照射に関する機器・手法についてまとめる。

リニアックによる電子線をターゲットの当て、発生するX線(光子)を癌に照射する方式は、
所謂「放射線」の代名詞とも言える。が、最近は色々な機種や製品名が氾濫する様になって
きたので、高性能リニアックについて私の理解する範囲で整理してみる。

従来、リニアックでは分布を再現する「原体照射」と線量を集中させる「定位照射」
の大きな2つの流れがあったと考える。

1.3次元原体照射
 体内をスカスカに通り抜けるX線で強い効果を狙う為、真っ先に考えたのが原体照射。
多方向から照射して患部に線量を集中させる。私が高知大で受けた放射線装置もこのタイプ。

2.IMRT(強度変調照射装置)
 癌の形状が素直な「丸」や「四角」なら3Dでもまあまあ良いが、例えば癌が正常細胞を
抱き込んだ腰椎・脊椎などでは神経などが「人質」になり、3Dでは緩和的照射がせいぜい。
そこで考え出されたのがIMRT。マルチリーフコリメータを制御しビームに濃淡をつける。

きめ細かい照射野を再現できるが、治療計画に時間がかかる事と、照射誤差も大きかった。
3Dが2~4門なのに対し、IMRTも4~5門なので線量集中性は大して変わらない。制御が下手
なIMRTをやるくらいなら3Dで「がっつり」射つ方がまだ確実?
転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ-原体照射


3.定位照射
 一方で、コバルト60によるγ線を線源として脳疾患に対し特化され発展したのが、
ガンマナイフ。定位照射の代表例。リニアックからのX線(6~10MeV)とはエネルギー(波長)
が少し違い1MeV程度。「γ」と呼ばれるのは発生機構が核種崩壊に拠る為で同じ光の仲間。

「集中させる」のが長所で201門のビームを集める。集中度が高いので位置精度が重要。
分割照射では再現性に誤差が生じるので通常は「1回照射」でケリをつける。
転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ-定位照射


4.サイバーナイフ ブレインラボ社製ノバリス 装置価格 5.25億円
 「集中させる」定位照射と「形状を再構成する」原体照射の両立を目指したのがノバリス。
360°のどこからでも(ノン・コプラナー)照射できる。イメージガイド(IGRT)も付属して
おり治療間、治療中の誤差も少ない。体幹部への分割照射(数回から10回)も可能。
ビーム本数は通常は40~200程度で計画される。(最大は1000ぐらい?)

2009年5月の段階で体幹部にも保険適応範囲が拡がった。が、殆どの施設で体幹部は受け
付けていなかった。呼吸変動も追尾できる機能があるが、マーカ自体が保険承認されて
なく、国内では宝の持ち腐れ。(私はイリジウムマーカーが肺に入っており「やれるかも」
という話になったが、治療経過の流れで抗癌剤を挟んだのでキャンセルになった。)

自由診療の病院もあるが、費用と技術的な面を考慮し、私は回避。
転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ-ノバリス


5.トモセラピー 装置価格 5億円
 原体照射であるIMRTをより便利にし、かつ周回照射させることでビーム本数を増やす。
定位照射としての集中性も5門程度のIMRTよりは遥かに良いが、ノバリスの半分程度?
呼吸変動に追従できないので、動く範囲を丸ごと撃つ。イマイチではあるが、国内では
ノバリスも保険の関係で「追尾照射」できないので、結局良い勝負?2009年の段階で
殆どの施設が前立腺専用機。一部緩和的な骨照射など(8Gy×1回や3Gy×8回など、、)。

こちらも自由診療の病院もあったが、費用と技術面を考慮し、結局回避。
転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ-トモセラピー


6.MHI-TM2000 装置価格 12.5億円
 国内メーカによる高性能IMRT機。トモセラピーに加えビーム照射源に首振り機構が付加
されている。衛星軌道上「前後」からも照射できるので定位性でやや勝ると予想される。

2008年実質配備・保険申請がなされたばかり。イメージガイドに直行2軸CTを採用している。
照射源の支持も高剛性化しており照射精度は高いとのこと。装置価格がノバリスの倍以上。
転移性肺癌の1寛解例に関する研究、のブログ-mhi-tm2000


以上、現代っぽい技術をコミコミに折り込んで高性能化をはかってきたリニアックで
あるが、どんなにコリメートしても、また照射源のリニアックをX-バンド(11.424GHz)
で軽量化しても、フォトンの生物学的効果は変わらない(エネルギー依存は無い)。
100本のビームに分割し、正常細胞の被爆を1Gy以下に抑えたとしても低線量被爆の
体積が100倍増えるだけでありトータルとして安全になる方向とは言えない。

ノバリスをさらに高精度化した機種ならば、癌腫や患部の位置、大きさによっては有益かも
しれないが、それ以外のリニアック装置を将来的に多数配備する方針は医学的に間違い。

患者のニーズは「治ること」、「治らないとしてもより合理的な治療を受けること」である。
現在のリニアック高性能化の流れは「便利なこと」と「より多くの台数を配備すること」を
目指しており、それらはあくまでも病院や医師、メーカー側のニーズでしかない。