放医研でHIMACが完成したのは1993年である。80年代、私の友人で土建屋の息子の医学部生
のソアラには「車載電話」がついており、色々と重宝した。当時まさに「夢の」装置であった。
が、現在のケータイを見て「夢の」とか「奇跡の」などと感じる人はいない。

重粒子も物理学の分野から見れば非常に古いマシンであるし、今後も全面的に開発の余地がある。
しかしながら当面は重粒子の普及とそれまでの「繋ぎ」こそが放射線治療の最大の課題と考える。

現状、放射線治療の「需給のバランス」は質、量ともに崩れている。
しかも殆どのケースは初回治療を受けた病院の「系列」により、流れ作業的に決定される。
「放射線なんて、どれも大して変わらないらしいよ」という噂がその根拠になっている。

患部や経過、費用や居住地、仕事や治療の進め方、などは患者個々に異なる。
治療に関して素人である患者にはアドバイスが必要である。が、間違っても、
親戚の「経験者」や「がん難民コーディネーター」などに相談すべきではない。

私も癌になりたての頃、他患者のお見舞いのおばちゃんなどに捕まったりした。
癌の発生や転移、癌に効く「水」や「食品」、さらに色々な病院や大学、医師の評価、
など独自のお考えがあり、大変御詳しい。ただ、少し聞いてみると、

ーーそうですか、で、旦那さんは何癌だったんですか?ーー
「え?、確か胃カメラで判ったんだけど、肝臓にもあって、で、手術したんだけど、、、」

ーー手術?、それで術後の細胞検査はどうだったんですか?何癌だったんですか?ーー
「検査?検査は手術の前じゃないの?、でもその後の抗癌剤で急に悪くなって、、」

ーー抗癌剤は何を何コースやったんですか?ーー
「?、、、、。とにかく抗癌剤が失敗だったのよ!若い先生は親切で良かったんだけど、、」

ーーそれは何年くらい前ですか?ーー
「15年くらい前。とにかく○○病院に行ったら殺されるわ!抗癌剤になったらもう終わりね」

通常、必要な情報は全く得られない。ヘタをすれば「ホメオパシー」すら勧められてしまう。
しかし、こういった「低質な話」が患者の意志決定にかなり影響しているのも現実である。

特に放射線治療に関しては「有益な」情報を集めるのは難しい。勿論その原因は、
正しい情報の整理と医学的に合理的な「意志決定」を避けてきた専門家の側にある。
が、とにかく患者は早期に治療法を決めなければならない。

もしも私が九州の田舎のO県あたりの在住だとしたら、取りあえず県内でIMRTがある病院と
九州がんセンターの両方の外来を予約する。他人を含め、最も信頼できそうな人間に
付き添ってもらい、治療法や病院について相談する。

患部や状態によってはIMRTも選択肢になり得る。近所で済めばそれに越したことはない。
必要なら千葉県だろうが、群馬だろうが治療に行くが、容態が悪ければムリはしない。
サイバーナイフを体幹部に撃つのは多分、少し躊躇する。線量分布を見て回避もあり得る。

繰り返しになるが筑紫哲也さんが鹿児島のUASオンコロジーに「ムリを押してまで」
行ったのは合理的では無かったと思っている。誰が関与し、どういう過程で、意志決定が
なされたのか?、関心はある。が、放射線治療についてはこの辺りで一区切りとしたい。

次回からは、経過観察と他治療法の話題などに移行する予定である。