10年以上昔の話にはなるが、世界の主だったメーカーの代表的な車について、
「音・振動」、及び「耐久性」評価を担当した事がある。

例えばカーグラフィックTVなどでは何時までたっても「私はフランス車が好き」
とか「日本車もやっと追いついてきた」などと子供並の車の見方を続けている。

が、技術者の目から見るとかなり以前から世界のトップメーカーはトヨタ。
少し離れて2位タイが日産とメルセデス。で間違い無いだろうと思う。

F1レーサーのアラン・プロストが含蓄のある言葉を言ったことがある。曰く、
「私にとって理想の車とはチェッカーフラッグを受けた直後、
 1m走った所で全ての部品がバラバラになる車である」と、。

性能vs強度・耐久性vs重量(燃費&コスト)は相反する課題であり、生産ラインの
合理性やメンテナンス性を含め「最適なバランス」を追求するのが車造りの基本。

恐らく現在も、国内メーカの一つの基準は「18万km耐久」であろう。
これは「基幹部分や重要保安部品については無交換で18万kmは走れますように」
という所を目標にギアやネジ1本にいたるまで徹底的に「最適化」を行う。

例えば「ドア1枚あたりのスポット溶接を120カ所」等と決めるのにも根拠がある。
それは119点では足りないし、121点でも過剰品質なのである。

メルセデスやゴルフに「しっかり感」があるのはアウトバーンを想定している
ためで、国内メーカーとは狙っている価格帯と耐用年数が違うだけの事である。

それに対し、いわゆるビッグ3の車は当時「信じられない程」酷い状態であった。

トヨタや日産、メルセデスに追いつこうとするならば、設計、実験、評価、生産、
などの基幹部門について、相当数の人材を「他社から引き抜く」必要がある。

カルロスゴーンが日産を再建した時は余剰人員のカットと下請けの切り捨てで
対応できた。幸いな事に日産には当時ギリギリの「技術の蓄積」はあった。
今のビッグ3には「技術」以前に「技術を産み出す文化」すら無い。

しかしながら、潰れた場合の波及効果はあまりにも大きい。

役員がプライベートジェットで公聴会に来たから「救済反対」とか、
給与を1ドルにしたから「賛成」といったレベルの話ではない。
もしも私だったら各社の財務や人事、生産に関する調査を数ヶ月かけて行う。

工場や本社ビルなどの資産を半分くらいは「叩き売る」ことになるかも知れない。
ここに公的資金を注入せざるを得ないかも知れない。が、その活用次第によって
は雇用をある程度守れるかも知れない。

残りの「使える」部分は自動車会社として存続し、やはり「身売り」だろう。
ここでも持参金の形で公的資金が必要かも知れないが、名前と雇用だけは
なんとしても守るべきであろう。いずれにせよ困難な仕事になりそうである。

「救済」するか?、しないか?という議論は恐らく適切では無い。
「どの様に潰し、どの部分を再建するか?案」を検討し始めれば
少しは糸口が見えてくるかも知れない。