放射線治療では、どの様なリスクが、いつ頃?どの程度?現れるのだろうか。

仮に3~5Gyの全身被爆があった場合50%のヒトが60日以内に死亡すると考えられている。
通常、放射線治療では部分的にではあるが40~70Gy程度が照射される。
もしも全身に浴びれば2~3日で死に至る程の量である。決して身体に良い行為では無い。

放射線リスクは以下の様に「急性障害」と、二次癌に代表される「晩発障害」に分けられる。
程度や発現時期は勿論照射量や部位による。以下はあくまでも一般的な理解である。


<急性障害>
・皮膚障害:照射後から遅くとも90日頃までに発現。
・骨髄抑制:脊椎や胸骨などに2~10Gy程度照射すると30日以内に発現。
・粘膜障害:主に消化器に対するびらんや炎症。酷い場合は潰瘍や穿孔等。
・肺繊維化:照射部分の肺機能消失。

X線については放射線治療の歴史が長く、多くの知見が蓄積されている。陽子線の生物学的効果
についても最近の見解では「X線と同等」とされ、X線の研究成果から外挿可能と考えられる。

それに比べ重粒子線の呼吸器への照射実績はまだ「500例」である。これはちょっとした抗癌剤
のPhaseIII試験(標準治療との優劣試験)と比較しても多いとは言えない。しかしながら、

重粒子線治療については1994年から2003年10月までに放医研で行われたPhaseI/II試験で明らかな
効果が確認された。有害事象についても急性障害に関しては、これまでの放射線治療の想定の範囲内
で概ね理解できる事が確認され先進医療に移行した。現プロトコルでは重大事故は起きていない。

勿論、副作用や抗癌剤との相性などについては今後も試験・評価を続ける必要があると思われる。
が、数ヶ月~数年の間に生じる早期障害については私はそれ程心配していない。


<晩発障害>
しかしながら重粒子線の晩発障害についてはまだ未知数な部分が多い。10年~20年前に
照射した患者の2次癌のリスクは当然ながら未評価である。n数も絶対的に足りない。
私の照射野は胸である。将来癌化が心配されるのは主に肺、骨髄、皮膚、食道である。

原爆被害を基に国際放射線防護委員会(ICRP)が1990年に修正・勧告した臓器別の致死癌リスクは
肺 :0.85×10^-2/Sv
骨髄:0.50×10^-2/Sv
皮膚:0.02×10^-2/Sv
食道:0.30×10^-2/Sv
程度と評価されている。
アメリカは今日に至るまで爆心高度の情報開示を拒んでおり定量的評価には拡がりがある。
精度等については今だ議論中であるが、この重大な指標を基にリスクを見積もる事にする。

私の照射線量(Gy/E=Sv)と照射範囲の各部位に対する体積/表面積比率(%)は概略
肺 :54Sv, 約5%
骨髄:15Sv, 約10%
皮膚:10Sv, 約1%
食道:15Sv, 約30%
程度と見積もられる。

結局、リスク[/Sv]×線量[Sv]×有効領域[%]から計算される私の晩発障害リスクは
肺癌 :2.3%
白血病:0.8%
皮膚癌:0.002%
食道癌:1.4%
総計 :約4.5%程度、
と「計算」される。イレッサの副作用死1.5%、カルボ+タキソールの1%と比べてもかなり高い。
しかも重粒子線の場合、同じ「54Sv」であってもX線等の外挿から外れる恐れすらある。

しかし、勧告が出された1990年の「致死癌」の定義と2007年の「致死癌」の定義はかなり
異なるハズである。さらに2次癌の発症が10年~20年先であればこのリスクは相対的に
もっと下がると期待しても良いであろう。

「再発部位のリスク」と天秤にかけた結果、放射線の晩発障害についても受容する事に決めた。