今、訳あって、愛車を修理に出しており、代車に乗っている。
代車は、古いメルセデスで、今現在は禁煙車だが、昔は喫煙車だったことが乗った直後に分かるほど、タバコの匂いがする。
その車で、夜、山を越えた。
窓を開けると、タバコの匂いがする車内に、欝蒼とした、肌にからみつくような夏の匂いが紛れ込んできた。
耳鳴りがしそうなほど、虫の鳴き声がする。蝉なのか、秋の虫なのか、車の移動速度が速くて判別できない。
突如、車に乗るだけで心が浮き立ち、大人になったような気がしていた二十歳前後の気持ちを思い出した。
同時に、カブトムシを追いかけ、沢ガニを捕り、毎日市民プールに行き、それだけで幸せだった小学生の頃を思い出した。
そして、頼ることのできる家族のいない被疑者と話をした。心の中で、自分とこの人を分けたものは何だったんだろう、と独りごちる。
仕事のために運転していたというのに、ほんの少し、泣けた。
でも、子どものころに帰りたいとは、思わない。