種子法廃止に関する理解のなかで、対象となるコメ、麦、大豆について、山田元農相が「農家が古来、代を繋いで必死に守ってきた種子」と語っている状況はなく、「種子更新」で経済原則が支配していることを示した。種子法に記載されている国と都道府県の試験所は、収量と品質向上を目指し、新品種の開発を行ってきた。交配に必要な原種の保存が必要としても一般の農家は「代を繋いで守ってきた」のではなく、生きていくための収入増を目指してきた。

 

 さて、麦について触れる記事が少ないので調べて見ると種子法以前の話だという状況である。麦の生産と輸入の比率が1:6であり、日本の麦は力を入れて生産している気配が感じられない。

 

農林水産省:麦をめぐる事情について
http://www.maff.go.jp/j/seisan/boueki/mugi_zyukyuu/attach/pdf/index-12.pdf

 

 力が入らない原因は、需要が減少するコメに力を入れ、需要増の麦の増産に力を入れていないからだと言われる方がいる。

 

山下一仁氏:日本の食料自給率はなぜ低下したのか?

https://www.tkfd.or.jp/research/agriculture-globalization/s00155

 

 日本において麦の増産が困難な事情がある。高温多湿の気候そして転作に必要な農地の不足と水田活用など不適地での栽培などにより、収量と品質の限界がある。

 

 小麦の収量(反収)についてFAO(国際連合食糧農業機関)の統計を見ると、中欧は約900kg/10aに対し日本はその半分程度である。しかもそのレベルは55年前の中欧のレベルで有り、農業技術の発展に力を入れてこなかったと思われても致し方ない状況である。(下記農研センターのレポート)なお、広大な農地を有する北米、南米、オーストラリアなどは、自然にまかせる農法のため収量増大に力を入れていない。

 

1961年~2016年までの56年にわたる各国の収量(反収、yield)を地域別に分けたグラフ


FAO統計URL(hg/ha = 100 x kg/10a)
http://www.fao.org/faostat/en/#data/QC

 

中央農業総合研究センター研究報告 第24号(2015.3)
https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/files/narchokoku-24-3.pdf

 

 上記農研センターの報告によれば、日本の品種開発は収量よりも品質を重視する方向に研究開発がシフトしたとしている。つまり、食味においても輸入品に対し劣り商品価値が低かったことを意味している。その事例は「讃岐うどん」の小麦に象徴される。

 

 最近、開店相次ぐ讃岐うどんのチェーン店、スーパーの食品売り場での讃岐うどんの商品説明に、「国産小麦100%」の表示が目立つが「本物の讃岐うどん」と言えるのだろうか。

 本場の讃岐うどんは、ASWあるいはANWというオーストラリア産の小麦を原料としている。その小麦粉を生産している製粉会社のHPを紹介する。国産小麦100%の讃岐うどんが本場の讃岐うどん(ASW)並みの味がするかは味比べをすれば分かると思う。


 吉原食糧の説明「ある種公共的な役割「食糧供給として過度の競争よりも安定供給を優先」「国内農業振興のための施策に沿った経営」」と語るように収量増・品質向上のための品種開発がおろそかになっていたことを物語っている。

 

木下製粉
「小麦も85%を輸入に頼っています。特にうどんに使用されている小麦といえば圧倒的にASW(オーストラリアン・スタンダード・ホワイト)で、年間およそ100万tが輸入されています。」
http://www.flour.co.jp/sanuki-udon/yume-asw.php

 

吉原食糧
「国内産小麦の存在は「公共のもの」のように思える時がある。制度としては民間流通に移行したが、品種の独占や囲い込みは基本的に行なわないという認識が根底にある。原料として基本的に平等に分け合おうとする考え方である。」
http://www.flour-net.com/wheat/australia/

 

 日本の風土・気候に適した収量と品質を向上させる小麦の品種開発が出来るのだろうか、またその努力を推進する価値があるのだろうかと疑問に思う。(上記農研センターのドイツ事情や吉原食糧のオーストラリア視察記事を読んで)