2024年1 月教育臨床学研究会のご報告 | 応用行動分析学入門(study-behavior-analysis)のブログ

応用行動分析学入門(study-behavior-analysis)のブログ

教育臨床学研究会は、さまざまな分野からの参加者が集う中野良顯先生が主催する応用行動分析の研究会です。

1月21日 ZOOMで開催 出席者6名

 

庄司博幸さんが、ペンシルベニア大学ウォートンスクール教授で、行動科学者のケイティ・ミルクマン『自分を変える方法』を、集団統計から得られた知見を個人にどのように応用するかという視点で紹介された。

 

ITRODUCTION 正しい戦略で勝率を上げる

人がなかなか変われないのは、正しい戦略を見つけていないからだ

 

CHAPTER 01 いやでも「やる気」が出る-「フレッシュスタート」の絶大な力

自分や他人の行動を変えるには、足を引っ張る古い習慣がない「フレッシュスタート」の

状態から始めれば、とても有利な立場に立てる。転職、恋人との別離、転居など、私たちが新たな始まりのように感じられる日に「変わろう」と決意することが多いのは、そうした瞬間が、「前に失敗したから今度も失敗するだろう」という目標を開始するときにありがちな障害を乗り越えるのに役立つからだ。新年の誓いの80%は失敗するとしても、20%は成功していることは、そのように思い立ったおかげで、生活を改善できた人がたくさんいるということだ。

 

CHAPTER 02 「衝動性」を逆用する-「つい動いてしまう」仕組みをつくる

目標に「甘味」を加えることを誘惑バンドル(抱き合わせ)と呼ぶ。著者は、ハリーポッターを読むのは運動をしている時だけに制限することによって、家で勉強をサボらず、またジムに運動に行くようになった。誘惑バンドルが最大の効果を発揮するのは、誘惑に浸ってよい時間を、やる気をとくに高めなくてはできない活動をするときだけに制限できた場合である。

 

CHAPTER3 また「先延ばし」した?-自分を「最適な強度」で縛る

トーマス・シェリングとリチャード・セイラーは、より大きな目標を達成するために、自分の自由を制限するような仕掛けを「コミットメント装置」と呼んだ(上司への期限の宣言、ブタの貯金箱、戸棚の皿を小皿だけに、スマホ利用の制限アプリ)。誓約は、破ったときのペナルティが「罪悪感と気まずさ」だけという、特にゆるいコミットメントの一つだ。誓約したことと実際の行動の矛盾は、認知的不協和によってそれを解消するように働くため、行動を良い方向に変えるツールとして役立てることができる。また、誓約は一口サイズになるとそれほど大変そうでなくなり、守りやすくなる。

 

CHAPTER 4 「合図と計画」ですぐ動ける-「合図つきの計画」という最高の味方
「忘れてしまった」はでたらめな言い訳とはかぎらない。それは想像以上に深刻で一般的な有限不実行の原因なのだ。したがって、目標を達成するための計画を立て、その計画に、行動を思い出させる特別の合図(キュー)を結びづけるのは有効である。計画実行のきっかけとなる合図を詳細で具体的なものにするほど、それは気づきやすいものとなり効果が高くなる。著者は、仕事でもプライベートでもやりたいことがあるときは必ずそれを「いつ、どこで行うか」をじっくり考えることにしている。
 

CHAPTER 05 「怠け心」を出し抜く-「怠惰なおかげで」で続くようにすればいい
行動変容が難しいのは主に怠惰のせいだ。しかし人間の生来の怠け癖は「バグ」ではなくプラスの面もある「仕様」と考えることもできる。それには膨大な時間と労力を無駄にするのを防いでくれるというメリットもあるのである。別の選択肢を選ばないときにシステムによって自動的に設定される条件をデフォルトという。習慣とは、意識的、無意識的に何度も繰りかえすうちに、自動的に行えるようになった行動や手順を言う。それは脳のデフォルト設定、つまり意識的処理なしで行われる反応である。

怠惰という人間のデフォルトそのものを変えることができないならば、良い結果を得るため脳の自動操縦、有益な習慣を身につけることが役にたつ。よい習慣を身につけたり、悪い習慣をよい習慣と置き替えたいしたいのなら、計画的にくり返し訓練する必要がある。やり方は簡単だ。一貫した環境に反応して行動し、何らかの報酬(ほめ言葉、安心、快楽、現金など)を得ることをくり返すうちに、より自動的に反応できるようになる。朝のコーヒーを例にとると、一貫した環境とは「朝食時のキッチン」、報酬は「淹れたてのコーヒー」、習慣は「コーヒーを淹れるために必要な一連の動作」ということになる。「最も定着性の高い」習慣を身につけようと思ったら、予期せぬ出来事が起こったときに対処できるように、柔軟に対応する方法を学ぶ必要もある。

 

CHAPTER 06 自信の異様な力-心だけでなく体まで変えてしまう
スタンフォード大学のアルバート・バンデユーラは、「自分の行動やモチベーション、社会的状況をコントロールできる」という自信のことを自己効力感と呼んだ。実行できないのは知識がないからではなく、この自信がないからかもしれない。私たちは、誰かが変われないのはその方法をしらないからだと思いこみ、彼らに欠けている知識をさずけようと助言を与える。だがもしその原因が、「知識がない」ことではなく、「自信がない」ことだとしたら、私たちの望まれない助言が、役に立つどころか逆効果を生んでいる可能性がある。私たちは他人に助言を与えることによって、「私はあなたが自力で成功できないと思っている」というメッセージを、心ならずも送っているのかもしれない。目標を追求している人たちは誰かに助言を与えると、同じような助言を受けたときよりもやる気が高まったという研究がある。誰かに教えを乞われると、私たちは「自分に役立つこと」を教える傾向にあり、そしてその助言を与えたあと、自分自身でもそれを実行しなければ偽善に思える。これは、心理学で「話したことを信じる効果」と呼ばれる現象だ。誰かに何かを言うと、認知的不協和を避けるために、それを自分で信じてしまうことが多い。

 

ある研究では、仕事が健康に良いことを知った清掃係は仕事に対する見方が変わり、その結果、仕事への向き合い方や取り組み方が変わった。アリア・クラムなどの心理学者はこのような現象についていくつもの理由をあげている。

1.信念は感情を変化させる。[感情がストレス軽減や血圧低下などの生理学的効果を

もたらし、次に起こることに影響をおよぼす]

2.信念によって注意の対象が変わることがある。[仕事を運動に変える方法に注意を

払うことで肉体疲労を前向きにとらえもっと頑張れる]

3.信念がモチベーションを変化させることを示す証拠もある。[質の高い運動をする

ために仕事をしようというモチベーションが高まる]

4.信念は私たちの生理機能に、感情を通じてだけでなく、直接的にも影響をおよぼす。[高カロリーを流し込んでいると思いながら飲むと、食欲を増進するグレリンの分泌量が  
 減少する]

 

何かが成功したときに生まれつきの「能力」をほめられた人は、固定的なマインドセット

を持ってしまい、失敗すると、自分の能力からいって仕方ないことだと思うようになる。これに対し「努力」をほめられた人は、頑張りが結果を生むのだと考えるようになる。

 

CHAPTER 07 「同調する力」を利用する-「みんな」の強烈な影響力

意識的にであれ、無意識にであれ、社会の規範は、社会的な不快感を感じたり制裁を受け

たりしないために同調しなければという圧力を生み出し、その結果、私たちは「同調する」

ことを好ましく感じるようになる。ある研究で、人々にお互いのノウハウをコピペし合うよう促したところ、運動したい大人は運動を増やし、成績を上げたい生徒はうまく予習ができるようになった。コピペ戦略[自分がめざす目標を達成した仲間を観察し、その手法を意識的に模倣する戦略]は効果があるのだ。

 

ホテルのバスルームのメッセージを、「あなたも環境保護に協力するゲストの輪に加わりませんか」と太字で強調されているのに加え、「一般に宿泊客の75%がタオルを2 回以上利用しています」に変えると、タオル再利用率は18%上がった。さらに「この部屋に滞在したゲストのほとんどがタオルを再利用しています」と伝えた場合、同じ行動を取る宿泊客が33%も増えた。

 

CHAPTER 08 最後に-いつまでも変わり続ける

成功のカギは「状況に合った解決策を選ぶこと」と、「変容を一時的な問題ではなく継続する問題として扱うこと」にある。

 

敵を知ることこそが成功のカギである。万人向けの一元的な戦略では、行く手を阻む障害に合わせた戦略ほどの効果は挙げられない。戦い方をいったんマスターすれば、あとは自分に合った戦術をとり続けるだけで、軌道を外れずにいられる。あなたの性格や状況にぴったり合った手法が見つかれば、行動変容はもうあなたの手中にある。そこに至るまでのステップで、本書がガイドになることを祈っている。