2020年9月27日研究会のご報告 | 応用行動分析学入門(study-behavior-analysis)のブログ

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教育臨床学研究会は、さまざまな分野からの参加者が集う中野良顯先生が主催する応用行動分析の研究会です。

[9月の研究会報告]

 

2020 年9月27日 ZOOMで開催。出席15名

新型コロナウイルスの感染に配慮して9月の教育臨床学研究会の例会はZOOMで開催しました。今回は恒例の2分間スピーチでみなさんが近況を報告された後、応用行動分析学 26章 随伴性契約、トークンエコノミー、集団随伴性の鈴木の要約原稿を使って輪読を実施しました。以下は26章のサマリーです。

 

第26章 随伴性契約、トークンエコノミー、集団随伴性

 

I 随伴性契約

 

1.随伴性契約の定義

随伴性契約 (contingency contract) は、行動契約 (behavioral contract) ともいう。それは1つの文書であり、特定の行動をやり遂げれば、特定の報酬が入手できるか、提供されるという随伴関係が明記されている。  

 

2.随伴性契約の成分

大部分の契約には、課題の記述、報酬の記述、課題の記録の3主成分が含まれる。

(1)課題
契約の課題部分は、4つのパーツによって構成される。()()は、課題を遂行して報酬を受ける人物。()()は、その人物がしなければならない課題ないしは行動である。いか(・・)()よく()は、課題の最重要部分で、課題の明細で、課題の下位課題やステップが列挙される。

(2)報酬
報酬部分では、誰がは、課題の完了を判定して、報酬の提示を制御する人物である。()()は報酬である。いつ(・・)は報酬を獲得する人物が報酬を受け取る時間を特定する。どんな契約であれ、報酬は、課題を首尾よく完了した後に提示することが決定的に重要になる。どれ(・・)だけ(・・)多く(・・・)は、課題をやり遂げて獲得できる報酬量を表す。

(3)課題記録

課題の記録の欄には2つの目的がある。第1に、契約上に課題完了と報酬提示を記録することは、当事者のすべてにその契約を定期的に点検する機会を与える。第2に、契約書上に課題達成のマークをつけることは、課題をやり遂げて報酬を獲得するまで、本人を集中させておくために役立つ。

 

3.随伴性契約を実行する

契約はどう作用するのか。契約にはおそらくルール(・・・)支配(・・・)行動(・・・)が関与していると考えられる。強化は含まれるが、直接には作用しない。遅延性の結果は、言語行動によって、ルール(、あるいは、暫定的トークン強化子に関連づけられれば、何時間も何日も前に遂行された行動を制御するために役に立つ。

 

4.随伴性契約の適用

ミラーとケリー(Miller & Kelley, 1944) は、随伴性契約と目標設定を組み合わせることによって、今まで宿題をしてくることができず、他にも学業問題 (提出期限を守れない、課題から外れた行動をする、提出物に間違いがあるなど) のある、4人の9歳から12歳の子どもの、宿題の遂行を改善した。

 

5. 随伴性契約を作る

一般的に、契約作りに関係する当事者のすべてが積極的な役割を果たすとき、契約は一層効果的になる。ダーディグとヒューワード (Dardig & Heward, 1981 ) は課題と報酬を同定するための5ステップの手続きを明らかにした。

 

ステップ1:会議を開く
グループのすべて(家族や学級)を契約過程に参加させるためには、会議を開かなければならない。大切なことは、子どもから見て、契約とは大人たちが自分に押し付けるものではなく、グループのメンバーのすべてが共有する過程であると思えるようにすることである。それぞれのメンバーは、契約文書を実際に書き上げる前に、3つのリストを完成させなければならい。

 

ステップ2:リストA に書き込む

リストAは、それぞれのメンバーが契約の文脈において自分がすでにしている課題と遂行すべき課題とを同定するために使われる。1人1人のメンバーにリストAを配る。全員がすべての課題をできるだけ明細に記述するように注意しなければならない。

 

ステップ3:リストB に書き込む
リストBは、他のグループメンバーによってすでに遂行されている有用な行動と、それぞれの契約課題の候補とを同定するために使う。リストBは、順に回され、誰もが自分以外の人のリストに、すでに遂行されている有用な行動と契約課題の候補を最低1つ

 

ステップ4:リストCに書き込む
リストCは、グループメンバーの1人1人が、契約課題を完遂させることによって手に入れたい報酬の候補を同定するために使う。メンバーは、日常好きな事物や活動だけでなく、長い間欲しかった特別な事物や活動を列挙する。1人1人が、他の2つの自分のリストも集めて、それらを注意深く読み、誤解されている項目があれば、それについて話しあい、記入するチャンスが与えられる。

 

ステップ5:契約を書き上げる
最後のステップでは、まず1人1人の最初の契約の課題を選ぶ。グループメンバーの間をあちこち動き回りながら、メンバーはお互いに助けあって、最初にスタートさせるべき最も重要な課題がどれかを決定する。メンバー全員が、()()その課題をすることになるか、その課題は正確に()()ある(・・)()、それはいつ(・・)、そしてどれ(・・)くらい(・・・)良く(・・)行うべきか、考えられる例外は何か、について書かなければならない。メンバー全員が、リストCを見ながら報酬を選ぶ。それは、選んだ課題にとって過剰でも無価値でもなく、公正なものでなければならない。メンバーはそれぞれ、誰が報酬を管理するか、何が報酬か、報酬をいつ与えるか、どれくらいの量を与えるか書かなければならない。グループのメンバー全員が、第1回の会議で、1つの契約を書き上げなければならない。

 

6.契約実施のためのガイドラインと考慮すべき点

随伴性契約によって改善する標的行動は、当人のレパートリーにすでに存在している行動でなければならない。その行動がレパートリーの中にないのであれば、他の行動形成技法(シェーピング、連鎖化)を試すべきである。

 

7.契約を評価する

随伴性契約の評価においては、標的行動を客観的に測定することが重要である。契約を評価する最も簡単な方法は、課題の遂行の生起を記録することである。契約書に課題記録を含めると、評価を契約過程の自然の副産物とすることができる。

 

Ⅱ トークンエコノミー

 

1.トークンエコノミーの定義

トークンエコノミー(token economy)という行動改善システムは、(a) 特定された標的行動のリスト(b) 参加者が標的行動を自発して受け取るトークンまたはポイント、(c) 参加者が獲得したトークンを交換して入手するバックアップ強化子のリスト(好きな品物、活動、特別な権利)という3大成分によって構成される。

店舗ベースまたはメーカーのクーポンは、トークンエコノミーである。貨幣もトークンのもう1つの例である。それは後刻、バックアップとなる事物や活動(例えば、食物、衣服、運賃、娯楽)と交換することができる。

 

2.トークンエコノミーの有効性

トークンエコノミーは、次の理由から、応用場面において有効である。
① トークンは行動の生起と、バックアップ強化子提示との時間のギャップを橋渡しする。
② トークンは行動とバックアップ強化子提示との場面の違いを埋めあわせる。例えば、学校で得たトークンは、家庭で強化子と交換することが可能である。
③ トークンは般性条件強化子であるため、実施者の動機づけ管理を容易にする。

Ⅲ 集団随伴性

 

1.集団随伴性の定義

集団随伴性 (group contingency) とは、集団の1メンバーの行動を条件として、または集団の一部の人々の行動を条件として、あるいは集団全員の行動を条件として、共通の行動結果(通常は、強化として機能する報酬)を伴わせるという随伴性である。集団随伴性は、依存型、独立型、相互依存型に分類することができる。

 

2.独立型集団随伴性

独立型集団随伴性 (independent group contingency) とは、集団全員に随伴性を提示するが、強化はその随伴性に示された基準を満たしたグループメンバーだけに与える取り決めである。

 

3.依存型集団随伴性

依存型集団随伴性(dependent group contingency) においては、集団全体に対する報酬が1人の子どもか小集団のパフォーマンスによって決定される。この随伴性では、1個人(または、全集団おに含まれる小集団)が、ある行動を特定の基準まで遂行すると、集団全体が強化を受ける。

 

4. 相互依存型集団随伴性

相互依存型集団随伴性 (interdependent group contingency) は、集団のメンバー全員が(個別にそして(・・・)集団として)随伴性の基準を満たせば、誰もが報酬をもらえることになる。相互依存型集団随伴性は、子どもたちを結びつけて、共通の目標を達成させ、それによって仲間の圧力と集団凝集性をフルに生かすようにすれば、独立型、と依存型の随伴性よりも大きな効果をもつことになる。

 

[感想]

本章では、行動契約、トークンエコノミー、集団随伴性がとりあげられている。

トークンエコノミーは、貨幣経済そのものがトークンエコノミーであることを別にしても、巷にあふれている。店舗が発行するスタンプカードをはじめとして、クーポン券、様々なポイントカードやスマホの専用アプリがあって、顧客の囲い込みをはかっている。消費者としては、あまりに多くのトークンエコノミーに囲まれて、いささか食傷気味でさえある。集団随伴性については、トークンエコノミーほどではないが、実際に経験したことがある人が多いと思われる。

 

行動契約については、実際に経験したことのある人はあまりいないのではないだろうか。その意味で、行動契約は目新しく、興味深かった。また、行動契約の目標を、教師や親が一方的に決めていくのではなく、そのグループの中で自分視点と他者視点から目標を検討して、相互の合意の上に決めていく過程が参考になった。いろいろなプロジェクトのチームにおいて、メンバーの目標設定をするのにも応用できると思う。