大人
五反田の写真スタジオサラのHP
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子供の頃 チャンネル権は大人にあり、大人がNHKにチャンネルをあわせると私にはもはや 早くその番組が終わるのを祈るくらいしかなかった。 大人が興味深そうに観ているその退屈な番組は私には永遠に続きそうにさえおもえた。 ようやく番組が終わると夜遅いということもあるのだろうが、その番組についてあれこれ話すでもなく「おやすみ」とそれぞれの部屋に戻っていった。 私には全く理解できなかった。
先月のある夜、五反田のバーでワインを飲みすぎ酔っ払って帰ってきた私は いつものようにTVをつけた。その日は面白そうな番組がなく、スポーツニュースでもやってるかと思いめずらしくNHKをつけた。
「なぜ 天才数学者は失踪したのか?」という声が耳に飛び込んできた。 リモコンをテーブルに置いた。 それはロシアの数学者ペレリマン博士が100年の難問ポアンカレ予想を解いたという内容であった。ポアンカレ予想というのは宇宙の形を問いかける問題で、宇宙にロープをはりめぐらせ1周させてそのロープを回収できれば宇宙はおおむね丸いだろうという予想で、私にはこの時点で何を言ってるのかさっぱりなのだが、100年間多くの数学者を魅了し、なかには半生をささげ精神を蝕まれた数学者も少なくなかったそうだ。 そして ついにペレリマン博士が証明した。
子供の頃いつも笑顔を絶やさなかったという博士は その問題を証明した後、人前から姿を消し一切の人付き合いを絶った。 少年時代の恩師の訪問にも扉を開けず 恩師は「彼は全くの別人になった。彼のいる世界は我々とは違うのかもしれない」と悲しそうにつぶやいた。 番組が終わり、TVの前には子供の頃あんなに嫌いだったNHKのドキュメント番組を夢中になって観ていた私がいた。
人と話したくない気分だ。
私も大人になったんだと思った。
最近こんな話を聞いた。
子供どうしは別れるとき たくさんの約束をする。
大人どうしは別れるとき 黙って相手の健闘を祈る。