映画「かぐや姫の物語」制作時に、auスマートパス会員向け
スタジオジブリ公式読み物サイト「ジブリの森」において連載された
「かぐや制作日誌 “悲惨な日々” 西村義明」(2013年4月15日~9月1日)を再録


2011年3月14日(月)~3月19日(土)


14日(月)

・昨日の鈴木さんの連絡どおり、お休みとする。

・夕食の買い物に行くと、水や缶詰やカップラーメンは売り切れていた。「ハウル」の制作時だったかと思うが、何かの話をしているときに、宮崎さんが「今はスーパー行けば山のように食材も商品もあるけど、ロシアみたいになる日が、僕は来ると思っています。日本という国は、いつそうなってもおかしくないんです。そうなる時は一瞬です」と話していたことを思い出す。

・映画館も閉館している。

・結局は朝から晩まで、ネットやらテレビやらで、地震情報を見続ける。疲れてしまう。

15日(火)

・ジブリ事務部門は明日まで休み。原発も調べるほど危機的な状況であることが分かり、ひとまず、妻と子は名古屋にある妻の実家に戻すことにする。ちょうど、妻の父の還暦祝いで週末3連休の名古屋行きを予定していたので、それを前倒して。仕事中に万一のことがあった場合、交通も通信も麻痺するような状況では、スタッフと妻子の両方に対応することは出来ない。

・妻子を駅まで送って、出社。田辺さんは、通勤経路の西武線が運行していないとのことで、出社できず。高畑さんも出社せずで良しとする。

・男鹿さんから連絡あり、男鹿さんも月曜から通常通り作業をしている旨、連絡をうける。

・橋本さんと、佐々木さんは通常通り出社し、動画作業を継続している。

16日(水)

・高知に戻っている濱田くんをのぞいた全スタッフが揃った。今日から気を取り直してやっていこう。

・震災の影響でガソリン不足。万が一の事態に備えるため、この一週間は社用車を極力使わず、高畑さんの通勤もバスと電車で来てもらうこととした。

・とはいえ、まだネットワークは繋がっておらず、仕事にならない。メールもGmail、ファイルもネットワーク上に保存しているのが仇になる。紙とエンピツで仕事ができるアニメーターは、素晴らしい。

・高畑さんも、地震・津波の被害状況と原発が気になっており、食事のときなど、その話になる。事態はまったく良くなっていない、むしろ今後悪化するだろうという考えで一致する。

・18時に男鹿さんと打ち合わせ。「アトリエが計画停電で停電になっちゃって仕事にならないから、今から行きます」ということで。打ち合わせを始めたは良いが、19時ごろにかぐスタも停電してしまう。打ち合わせが途中なので、場所を移してジブリの1スタで打ち合わせを継続。

・外に出ると、真っ暗な東小金井駅南口。黄泉の駅で降りてきたかのように、真っ暗な道を真っ黒な人達が歩いている。懐中電灯を持つ人は少ない。見上げると、東小金井駅では滅多に見れない満天の星。

・ジブリで打ち合わせを継続し、そのあと食事。3時間も停電するということで、戻っても仕事にならない、と長めの夕食@キッチンブラウン。

20130828_1.jpg


17日(木)

・今日もまた停電。仕事途中の午後3時~7時という仕事時間を奪われてしまう。作業が滞る。停電があけても、集中力を戻すまでに時間がかかる人もいる。目の前のことに集中しているときは、集中しているのだが、停電で仕事ができなくなると、どうしたって被災地の話、原子力発電所の話などをする。みな不安なのだろう。

18日(金)

・今日もまた停電。12時~16時まで停電なので、ジブリでPCを借りて仕事をしようと思い、向かう。ちょうど昼休みどきということもあり、ジブリまでの道で多くのジブリスタッフに会う。みんなに「南口は停電です。飲食店はやってませんよ」と伝えながら通り過ぎる。

・気付くと、東北関東大地震から一週間がたった。早い一週間だ。原発は、どうやって事態が収束に向うのか、誰も確実なことを言えないらしい。高畑さんとも、あいかわらず原発の話ばかりしている。

・渡辺さんに相談事あり、ジブリへ。ジブリでは一度も停電が起きていないが、停電の際のサーバー保守が大変すぎるということで、確実さを求めて映像部門は夜間シフトを採用したらしい。実写照明用の電源車を借りることも検討しているとか。かぐスタの停電対応についても相談するが、なかなか上手い対応策が見つからない。様子をみるしかないか。

・深夜、日本テレビ番組「漱石の犬」を見る。フレデリック・バック展の紹介。震災前に完成していた映像だろうが、「木を植えた男」の紹介ナレーションが刺さった。『荒涼とした大地に一本一本、木を植え続けた男がいた。そこはやがて、緑あふれる森になった』 震災も原発も、どうなったところで、一歩一歩復興にむけてやっていくしかない。一枚一枚描いていくアニメーションも同じ。

20130828_2.jpg


19日(土)

・高畑さんは「練馬・九条の会」に参加。テーマは「原爆・放射能と憲法九条|65年間被爆者を診察し、寄り添ってきた医師として言えること(肥田 舜太郎さん)」。それを終えて、17時ごろ出社。その後、体内被曝の恐ろしさについて色々と話をしてくれた。