映画「かぐや姫の物語」制作時に、auスマートパス会員向け
スタジオジブリ公式読み物サイト「ジブリの森」において連載された
「かぐや制作日誌 “悲惨な日々” 西村義明」(2013年4月15日~9月1日)を再録

(パイロット版スタッフMTGの続き。)


 あの、それはね、あの、美術を男鹿さんがやってくれることになってるんですね。あ、まぁ、こないだ会ったから知ってるんだ!ハハ、一緒にやってくれる、アハハハ(笑)ごめん(笑)エヘへ(笑) もう頭がね、働かなくてすぐ忘れちゃう。 (※年末、パイロット版参加スタッフ全員で小規模な討ち入りを行った) まぁ、それはともかく、あれ、何の話をしようと思って男鹿さんの話をしたんだっけ。えっと。まぁ、要するにだから、えーーっと、全部が結び付いていると思う。バックさんのことも言ったけど、その、描きたいものを描くとか、端的に何か訴えられる部分が、ふっと、印象として、こう、立ち現れてくれば良いという。となると、美術なんかも、そういうこと考えてやるっていうのは大変なことなわけですね。男鹿さんなんてもう、ご存知の通り、すごく上手いわけじゃない?ほいで、それはあの、淡彩風の絵もいっぱい描いてますよ。描いてるけど、でも、どこらへんまで省筆するっていうかな、筆を省いていって描くかなんていうのは、あまりやってないですよね。だから、この仕事の中で男鹿さんもやろうとしてくれてるんですよ。

 だから、えっと、それと同じように、人間のほうを描く場合でも、細かく細かく、何かこう、緻密に埋めていくと何かが立ち現れてくるという方向に向わないという必要がありますよね、どうしたって。そうすると、彼(田辺さん)が、ここ、この、ここ、これなんか大きいよね、でも?(田辺さん「え?」)こんな顔描いてないじゃん (佐々木さん「え、これ、拡大してあるんじゃないですか?」) (田辺さん「元の絵は、小さいです」) ま、そうですね。要するに、こう、こんなフレームとかね。それがだから、ギョッとする……。なんか、フレームがまちまちっていう説明をちょっと。(田辺さん「あ、あ、いやいやいや」) いや。

(以下、田辺さんにバトンタッチ) その、フレームに対して一体どれくらいの、線の太さとか、線の、こう、離れ具合とかが良いんだろうって、まぁ、テストもやってたんですけど、なんかこう、やっていくうちに、こう、コンテで、アップのカットになればなるほど、やっぱどんどん小さい絵にしたほうが良いような気がするし、まぁ、小さいといっても限界があって。姫のカットなのに、姫の顔がガタガタしちゃうと、それはマズイと思うんです。その、小さくできる限界ってのはあって。それで、結局その、今のところ出た結論なんですけど、今現在、その、カット毎にフレームサイズを変えようと思っているんです。(佐々木さん「結局、その結論になったんですか?」) そうです。ええ。一応、20フレーム単位で考えてるんですけどね。20フレーム、40フレーム、60フレーム、80フレームって。例外もまぁ、どうしても出ちゃうんですけど。で、打ち合わせのときに、こういう、コンテを基に、カット毎にその、どれぐらいのフレームサイズで、作画サイズでやってもらおうかっていう、こっちで、すごくラフで、作ってみたんですけど。ちょっと、これ、ロングなので150フレームですけど、12カット目は、まぁ、150ですね。(佐々木さん「いちから全部やってるんですか?」)まぁ、打ち合わせのためにやってるんですけどね。カット3が40フレーム。

(以下、高畑さんが引き取って) あの、でも一言で言っちゃえば、(田辺さん「すいません(笑)」) ううん、いや、ごめん。その、さっきの、その爺さんのキャラクター出してください。えっとね、これは大きいんじゃないって、さっき言ったのはそういうことなんだけど、要するに、大きい絵だとスケッチ風に写すんじゃなくて、やっぱりこう、あるものを見て細部をこう、捉えようという風になっちゃう、大きくなればなるほど、密度があがってしまうから。そうじゃなくて、さっき、一番最初のことと全部結び付いてるんだけど、スケッチ風にこう描いたんですっていうことになると、あんまり大きい絵を描かないほうが良いっていうね。それぐらいでまとめたもんなんだっていうことになったほうが良い、ということになるからこうなんだ。たとえば、この爺さんを、バストショットだからといって、大きく描くと、大きく描くための、なんていうかな、あれになるじゃないですか。そうすっと、爺さん、こんなもんなんだな、こんな風だと思っているものから外れていくっていうかな。それで、このぐらいの絵にしたほうが良いってなると、フレームがこうなっちゃう、とかっていう、ことですよね?いわば。

(田辺さんに代わり)つい描き込んでしまいがちになっちゃうと思うんですよ、やっぱり、大きくしちゃうと(と、橋本さんと目が合う)。 (橋本さん「ハハハハ」) 反論もあるでしょうけど。ありそうですけど(笑) (橋本さん「いやいや(笑)」)

(以下、高畑さん引き取り) 実際、昔ね、これとは全然、比較にならんけど、東映動画時代に、大アップなんて結構あったんですね。大アップって、たいてい歪んじゃうんですよね。そのころコピー機も何にもなかったから、そのままココに描くだけなんですよ。そうすっと、やっぱ、良くないですよね。本当は、だから、ちっちゃな絵、ハハハ(笑)、その、ちゃんと自分が掌握できているもので描いて、それをこう、拡大すりゃ良かったんだけど、あの、拡大コピーなんか、そんなものは何にも無いからね、あの時代。そりゃ、みんな、ぶっつけで描くわけですけど、そうすっと、なんか、こう、間の抜けた顔になるとか。それはこれとはちょっと違いますけどね。

 でも、その、掌握できる大きさっていうのがあると思うんですね。で、掌握できる大きさっていうのは、それぞれ人によって違うんじゃないかなって気が、どうも、どっかでしてるんだけど。これは、その、田辺修が掌握できる、アッハッハ(笑)範囲なのかも知れないんだけど。ま、でも、それで、極端なことにはなって無いと思うんですね。これで、その、描ける情報量ってあるじゃないですか?これで描ける情報量で良いのだっていう考え方ですよね、いわば。それのほうが良いのだっていう、ことですよね。

(佐々木さん「あの、田辺さんの、そういう、その、あれが、ちょっと小さめな気がします。あの、田辺さんが描いてる、他の人より、ちょっと小さめですよね」) うん、小さめ。 (田辺さん「姫は、でも、小さいと厳しいですね。」) (佐々木さん「目の形とかによるんでしょうね。翁は小さくても、もつと思うですけど。」) わかりますね。ちゃんと目を描かなきゃいけない場合とか、目の大きさによってサイズが変わるっていうことは、あるでしょうね。(佐々木さん「姫は一定以上、小さくしちゃうと、目が描けないキャラなので」)

 で、そういうことも、今、さっき話したことだけじゃなくて、それが最終的な処理のときにどうなるか、美術と組み合わせたらどうなるか、ということを含めて、このパイロット版というものは、こういう色んなことを考えたことが、本当にこう、なるのかっていうことを確かめたいっていうことが一つ、あって、先行してやっていただこうという、その、ことになっちゃったんですけど。でも、結局その、えっと、我々としては戦々恐々しているのは、コンテが出来ていないので、その、どうなんのか分からないんだけど、一応、今の計画は、パイロット版というものをやったからと言って、じゃぁそこで、中断して、大幅に中断して、そこで、それをあれこれ、パイロットによって、何か、お金出すところとかに、色々、見せて、そんで、その、お金を引き出して、それから改めて立ち上がる、とか言うんじゃなくて、まぁ、続けて入っていければ、入って行きたいなっていう、という風に思っているようなんで。 (西村「はい」) ガッハッハッハ(笑) こちらはいっぺん休んだほうが良いんじゃないかって、思ったりもしてるんですけど(笑) そうは中々行かないっていう。で、ぜひ、宜しくお願いします。なんつって(笑) (一同「宜しくお願いしまーす」)


 以降、濱田高行氏から、順次、作打ちに入る。  (計48分)


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