映画「かぐや姫の物語」制作時に、auスマートパス会員向け
スタジオジブリ公式読み物サイト「ジブリの森」において連載された
「かぐや制作日誌 “悲惨な日々” 西村義明」(2013年4月15日~9月1日)を再録


 2010年12月29日(水)14時。前回と同じ参加者で、再びパイロットフィルムの予算等々の打ち合わせが行われた。この日は、2010年のジブリの仕事納めの日で、大掃除と忘年会が行われる日だった。そんな日に無理やり打ち合わせを入れさせてもらい、みんなに集まってもらったのだ。この打ち合わせの場で、来年1月からの「かぐや姫の物語」パイロットフィルム制作及びその後のアニメーター継続雇用に関して、正式な承認をもらうことができた。間に合った。ギリギリだった。これで、年を越すことができる。

 以下は、その会議の場に出された資料です。なんとなく、記録のために掲載しておきます。



「かぐや姫の物語」
パイロットフィルム制作の目的



 通常「パイロットフィルム」とは、スポンサーの獲得を主たる目的として制作されるものですが、今回制作する「かぐや姫の物語」パイロットフィルムに関しては、以下の目的を併せ持ちつつ、その制作に臨みたいと考えております。

① 所謂一般のセルアニメーションと異なる表現(画面作り)を実現するに際に、起こりうる技術的な問題を発見し、その解決法を模索する。

② 映画制作のほぼ全工程を(1)社外で行い(2)外部スタッフで制作する際に、起こりうる工程上の問題を発見し、その解決法を模索する。

③ 発見された問題とその解決法を基に、長篇アニメーション映画「かぐや姫の物語」を実現するための "現実的な"制作工程、制作体制、期間及び予算を検討する。

④ パイロットフィルム制作が現場に与える期待感と緊張感を活用し、全ての計画の基になる絵コンテ作業能率を向上させる。



本パイロットフィルムの内容と体制



上記目的を実現するため、本パイロットフィルムの制作に際しては、通常のパイロットフィルム制作とは若干異なる内容と体制で制作いたします。


内容

 通常の「パイロットフィルム」は(1)パイロット用に新たなコンテを作成し(2)主要キャラクターを網羅した(3)"制作予告編的演出"が施された映像を基本としますが、前述の目的を実現するため、本パイロットフィルムでは、 精神的にも物理的にも"本篇"として制作に臨みたいと考えます。具体的には、

① 使用カットは、本篇絵コンテから選択。

② キャラクターは、本篇絵コンテにおける確定分のみ。

③ 予告編的編集、未確定である音楽演出は施さない。

但し、そもそものパイロット版の用に足る映像的魅力を有することは前提です。


体制

 制作期間を度外視すれば、監督、作画監督、美術監督、撮影監督で実現可能な秒数ではありますが、先の目的を実現するために、以下の体制を実現したく考えております

(1) 少数の精鋭原画スタッフの参加。

(2) 動画・動検、仕上・仕上検査、撮影の外注。

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