2010年12月24日22時。クリスマス・イブ。恵比寿のれんが屋で、鈴木さんと僕のふたりだった。街はクリスマスで浮かれていたけれど、マンションの一室のレンガ屋にクリスマス・ムードはなかった。鈴木さんはクリスマスなんて何とも思っていない様子だし、こちらはこちらで状況が状況だったから。コの字型に置かれたソファーで、鈴木さんはいつもの位置に胡坐をかいて座り、ぼくは、鈴木さんの右斜め向かいに座った。この鈴木さんとの話し合いで、企画が進むか、それとも終わるかが決まる。ぼくはそう思っていた。
鈴木さん「どうしたの？」
西村「いや、まぁ、あの、この前の打ち合わせの後、パイロットフィルムのやつですけど、ぼくも、色々と考えたんです。」
鈴木さん「うん。」
西村「それで、こりゃ、まぁ、このままじゃ、ダメかなって。鈴木さんと僕の関係がこのままだったら、映画なんて絶対に出来ないだろうなって思ったんです。」
鈴木さんは、眉間に皺を寄せて聞いていた。
西村「もう、これは僕の気持ちの問題も含めてですけれど、自分が、この間、鈴木さんに対して、どう思ってきたのか。今、どう思っているのか、それを率直に話すべき、話すしかないだろうと思って、急ですけど時間をもらいました。急で申し訳ないですけど。」
鈴木さん「うん。」
西村「こういう機会がないと言えないと思うし、本来、言う必要もないのでしょうけど、今後、『かぐや姫』を前に進めるためには、と思って。正直に、率直に言いますと、ぼくもジブリに勤めて８年くらい。で、色々と鈴木さんの近くでやらせてもらいましたけど、僕は、その、鈴木さんに対して、なんというか、ムカついていました。なんなんだ！なんなんだよ！って。何をしてもダメでした。毎日、怒られる。ジブリに入ってからこの間、ずっと怒られてきましたから。」
鈴木さん「俺、そんな怒ったっけ（笑）。」
西村「怒られました。ぼくは、怒られるたびに、いつも腹が立てていました。くそ！ちくしょう！って。「ポニョ」を降ろされたときも、納得できなかった。腹が立ちました。「かぐや」をやってきた中でも、いつも怒られてきました。」
鈴木さん「……。」
西村「鈴木さんと僕の親父が同じ年くらいってのもあるんだと思うんですが、たぶん、そういう事かもしれないですけど。」
鈴木さん「お前の親父さん、いくつだっけ？」
西村「６２とか、６３とかだと思います。」
鈴木さん「そうだったよな。同い年だとか言ってたな」
西村「はい。ま、でも、こういうのって、何と言うか。やっぱり良く分かってなかったんだなぁって。甘かったなって。最近つくづく思うんですよ。」
鈴木さん「どういうこと？」
西村「真面目に話します。ぼくは、ようやく分かったんですよ。鈴木さんが何をしてきたのか。」
