映画「かぐや姫の物語」制作時に、auスマートパス会員向け
スタジオジブリ公式読み物サイト「ジブリの森」において連載された
「かぐや制作日誌 “悲惨な日々” 西村義明」(2013年4月15日~9月1日)を再録


 2010年秋。高畑さんが、頻繁に「憂鬱だ」と話していた時期がある。高畑さん曰く、原因は「禁煙」したことだ。集中力がわかないし、なんか憂鬱なんだそうだ。そうなると決まって高畑さんは「日本人という鬱病」(人文書院)という本を紹介する。日本人は何かをしてもらうと、恩返しをしなければと思う国民だ。貰い物をしたらお返しを。手紙をもらったら、お返事を。お返しをしないと、もらった好意は、一種の債務のように積み上がり、債務超過に陥る。

 高畑さんとカナダのアニメーション作家・フレデリック・バックさんは、手紙をやりとりする間柄なのだが、バックさんの手紙に返事を書くと、手紙好きのバックさんは、すぐに返事を書いてくる。バックさんへの手紙は、高畑さん、電子辞書を片手にフランス語で書くのだが、他言語で長文の手紙を書くというのは、いくら高畑さんでも一苦労なのだ。せっかく時間をかけて一生懸命に書いたのに、その手紙を出したら、すぐに返事が帰ってくるとなると、気持ちは嬉しいのだが、大変である。またぞろ電子辞書を片手にフランス語で返事を書かなければならない。しかし、人間、そうそう努力は続かない。手紙を出さないまま数ヵ月たってしまい、それが「負債」となっていたころだった。

高畑さん「バックさんにも手紙のお返事を書かないといけないんです。でも書けなくて。はぁ……、もう、こんなことばかり繰り返しているんですよね。こうなると、わたしは人非人なんでしょうか。そう思われてもしかたないんですよね。いや、必ずしも、自分ではそうは思っていないんですけど、あははは。」

そんな高畑さん、あの頃は、もうひとつ、別の本も話題にしていた。みすず書房から出ているというその本のタイトルは、「耄碌寸前(もうろくすんぜん)」だった。 そんな「耄碌寸前」の高畑さん(笑)が、2010年10月29日に、75歳の誕生日を迎えた。少人数のスタッフで準備をし、祝いの宴を企画することに。題して、手作り企画「竹取の高畑じいさん」。それをご紹介して、本日の日誌を終えよう。


武蔵小金井にあるケーキ屋さん「マルグリット」の方々にご協力いただき、ロールケーキで竹やぶを作った。

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真ん中の色が違うのは、原作の中の一節「その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける」を表現。後に金箔を散らしたりして光を演出。


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77歳です。真ん中にあるのは、大量の「たけのこの里」。竹だらけ。狭いかぐスタにジブリの面々40人くらいが集まって、高畑さんを祝いました。ロウソクを吹き消したら、「高畑の翁」に、竹を切ってもらう。ケーキ入刀。


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中からは、かぐや姫が出てきましたとさ。 

おしまい。