映画「かぐや姫の物語」制作時に、auスマートパス会員向け
スタジオジブリ公式読み物サイト「ジブリの森」において連載された
「かぐや制作日誌 “悲惨な日々” 西村義明」(2013年4月15日~9月1日)を再録



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 2010年6月12日、かぐや姫スタジオ(通称「かぐスタ」)を開設した。メインスタッフ、制作スタッフが数名、作画スタッフが10人くらい入る広さ。美術監督も男鹿さんに確定し、8月から参加してくれることになった。鈴木さんから通達されてから本当に一ヶ月で、高畑さんと僕らは出ていった。
 

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※写真は、かぐや姫スタジオ内部。


 かぐスタを開設して、新たに「借りぐらしのアリエッティ」の仕事を終えた佐々木美和さんも加わった。佐々木さんは、高畑さんの「畑事務所」に所属する唯一人のアニメーターなのだが、ひとまず作画インまでは高畑さんの助手として仕事をしてもらうことになった。仲間がひとり増えた。

 高畑さん、田辺さん共に、引っ越してから1週間は、やはり落ちつかない様子だった。普段から捗らない仕事が、いっそう捗らない。とはいえ、徐々に慣れてくれて、一週間もすれば住めば都。自分たちしか居ないという状況は、ある種の清々しさすら感じるものだ。ただそれは、高畑さん、田辺さんにとっては、監視の目が無いということも意味する。これまで以上に、何らか手を打っていかないと、かぐスタは、完全にダラけたスタジオになってしまうだろう。あぁ、恐ろしい。

「かぐスタ」を開設するまでの進捗を整理すると、惨憺たるものであった。脚本は出来た。しかし、キャラクター固まりきらず、イメージボードは約ゼロ枚。何の設定も固まらないまま入った絵コンテは、2010年2月の本格作業開始から5月末までの計4ヶ月間で計139カット(約11分)しかできていない。一日約1カットのペースだ。毎日5秒弱の絵コンテしかできないのだ。

 このままだと、絵コンテだけに集中したとしても、絵コンテ完成まであと1000日以上、4~5年かかる計算になる。こんなペースだと、映画完成まで10年以上かかるんじゃないか。絶望的である。高畑さんは生きていないかもしれない、なんて真剣に考えたりもした。

 結局、スタジオを開設したところで、何も変わらない。要するに、僕がやったことは、箱を用意したに過ぎない。状況は依然として厳しい。

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