高畑さんの脚本作業は、はかどらなかった。「ピロリ菌のうた」から2~3日後、高畑家に行くと、いつものように高畑さんがPCへと向かってはいた。しかし、ワードファイルを開いていない。いったい何をしてるの?
高畑さん「西村くん、『低燃費少女ハイジ』って知っていますか?」
西村「えっと、聞いたことあります。日産のCMのやつですよね?」
高畑さん「え?そうなんですか。いや、この前の『ピロリ菌のうた』を久保田先生(お医者さん)に伝えたら、『高畑さん、これは知ってますか?』ってメールが送られてきたんですよ。ちょっと、これ見てくださいよ!」
寝起きらしき高畑さんは、不機嫌そうな顔でYouTubeを開いた。
ハイジ『おじいさん!おじいさん!おじいさんおじいさんおじいさんおじいさんおじいさんおじいさんおじいさんおじいさんおじいさん!』
オンジ『なんじゃねハイジぃ、聞こえとるよぉ。ずっと聞こえとるってぇ。』
ハイジ『低燃費ってなに?』
オンジ『へぇ?』
ハイジ『低燃費ってなんなのー?』
高畑さんはPC席に座って、ぼくはその側に立ったまま。ノートPCの粗悪なスピーカーから「低燃費ってなーに?低燃費ってなにー?」が聞こえてくる。えも言われぬ空気が漂う。
実は高畑さん、「アルプスの少女ハイジ」が企業CM等々で改変されて使われていることに関しては、一作り手として快く思っていない。そこに来て、この『低燃費少女ハイジ』である。ハイジもオンジも全くの別モノだ。ぼくは横目で高畑さんをちらと見る。高畑さんは不機嫌そうだ。怒り?
数分の映像が終わった。見終えた高畑さんは煙草に火をつけて、聞いてきた。
高畑さん「……どうですか?」
西村「どうって……」
高畑さん「……ええ、どうですか?」
緊張が走る。変なことを言うと怒り出するかもしれない。まぁしょうがない。ここは、正直が一番。
西村「感じが出てて、おもし……」
高畑さん「わかりますかっ!!そーーなんです!感じ出てるんですよ!全く別物ですけど、これはこれで出来が良いんです!」
と高畑さんは僕のほうへ高速で振り返り、興奮しながら、低燃費少女ハイジの「感じの良さ」を語り続けた。