映画「かぐや姫の物語」制作時に、auスマートパス会員向け
スタジオジブリ公式読み物サイト「ジブリの森」において連載された
「かぐや制作日誌 “悲惨な日々” 西村義明」(2013年4月15日~9月1日)を再録


 高畑さんと脚本家の櫻井氏を引き合わせた。ふたりは宮沢賢治の話で盛り上がり、高畑さんから早速「かぐや姫の物語」の説明が始まった。噛み合った。櫻井氏は、その日から脚本家として参加することになった。カタチにする。モノを提示して、高畑、田辺両氏の意識を変えたい。

 櫻井氏を連れて、高畑さんのご自宅へ週2~3回通う。高畑さんから企画意図が語られ、構想が語られる。エピソード毎に、具体的なブレインストーミングが続く。若いなりとも脚本家として色々とやってきた櫻井氏を前にして、高畑さんにも多少の遠慮があったのだろう。雑談の時間は減り、企画の話をする時間が多くなっていった。

 櫻井氏と僕は、別途、仕事の合間を縫って、国分寺駅前の喫茶店「アミー」で打ち合わせをした。どうやって進めていくか。櫻井氏の懸念を聞き、高畑さんが考えてきたことを補完的に説明する。櫻井氏の参加から一ヶ月が経った。「プロットを書いてみましょうか」という櫻井氏の提案に、僕は乗った。高畑さんの中にある気体のようにモヤモヤした着想を、凝固させる。文字にしてしまえ。

 10月には、田辺さんを含めて4人で、滋賀県大津市へ棚田を見に行った。ロケハンとは言い切れないが、かぐや姫の舞台に関して、何らかのイメージを掴もうと試みる。もはや結果は期待しない。何でも具体的にやってしまえ。

 10月末、プロットの第一稿が完成した。なおも脚本会議は続く。プロットを膨らませて、エピソードを作っていく。途中、だれてくる。間髪入れず12月には脚本集中期間と銘打って、マンションの一室に篭る。問題点が多数見つかったが、潜り抜ける。1/3の箱書きが出来た。2008年が終わった。

 年が明けた。なおも脚本会議は続く。プロットの再構成、エピソードの取捨選択を終え、残り2/3の箱書きが仕上がった。あとはこれを脚本の体裁に整えるだけ。2009年1月が終わりつつある頃、僕らは脚本化作業に入った。

 全体の1/5が上がる。高畑さんがチェックする。「こんな感じでしょう。」次へ。全体の2/5が上がる。高畑さん、チェック。「はい、進みましょう。」全体の3/5へ。「次へ行きましょう。」残り、2/5。2月も半ばを過ぎて、脚本の完成が見えてきた。


   「櫻井くんがやり易いように、残りは、最後まで書いたものを通しで見てみましょう。」


 高畑さんからの提案だった。脚本が完成する?胸は高鳴り、欲が生まれた。

20130525_1.jpg