映画「かぐや姫の物語」制作時に、auスマートパス会員向け
スタジオジブリ公式読み物サイト「ジブリの森」において連載された
「かぐや制作日誌 “悲惨な日々” 西村義明」(2013年4月15日~9月1日)を再録


 映画を作ろうとしない映画監督と、絵を描こうとしない絵描きと、完成を諦めた30歳の青年。最強の3人が揃った。この状態から、どうやって映画を作ろうか。

 何はともあれ、一人で高畑さんと対峙するのは得策じゃない。ひとりだと、あらゆることを真っ向から受け止めなきゃいけない。テーブルに座ると真向かいだ。なんか違う。ぼくは高畑さんの正面に座るべきじゃない。高畑さんの横だ。ぼくは監督の横に座る必要がある。誰かが必要だ。誰だろう?高畑さんに甘えが出ないようにジブリ社外がいい。そうだ、脚本家を入れてしまえ。もう話すのは止めて、脚本を作ってしまえ。

 ぼくは、携帯電話の画面をスクロールし、「サ」行を探した。そして見つける。「サクティ」。本名は櫻井圭記。アニメーション制作会社プロダクションI.G.の脚本家だ。


  西村「サクティ、暇ですか?」

  櫻井氏「え、何で?」

  西村「なんででも。暇ですよね?」

  櫻井氏「いや、忙しいよ。シリーズの企画があって、ひとまず1ヵ月後までに5話分出さなきゃいけないとか、そういう状況です。」

  西村「ちょっと困ったことがあって。唐突なんだけど、高畑さんの脚本、手伝ってくれないかな?」


 ぼくが脚本家の櫻井氏に電話をしたのは、理由があった。第一に、櫻井氏は、高畑さんと同じ東大出身だった。そして、櫻井氏は、高畑さんと同じく、宮沢賢治作品が好きだった。さらに櫻井氏は、高畑作品が大好きだ。実は、高畑さんが「平家物語」を企画したときに、高畑さんとも会っている。そして最後に、櫻井氏は僕の友人だ。何かあっても、支えることができるだろう。



2008年8月9日


高畑さま、

西村です。

 「かぐや姫」の脚本について、プロダクションIGの脚本家である櫻井圭記くんと話してきました。 約5年前に、高畑さん、鈴木さんと共に、週に一度おこなわれていた「平家物語」の企画会議に、2ヶ月間ほど参加した男です。 彼をつれて、来週、高畑さんのご自宅にお伺いします。

にしむら



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