映画「かぐや姫の物語」制作時に、auスマートパス会員向け
スタジオジブリ公式読み物サイト「ジブリの森」において連載された
「かぐや制作日誌 “悲惨な日々” 西村義明」(2013年4月15日~9月1日)を再録


 企画がいっこうに進まない状況が続くときでも、会社(ジブリ)に対しては説明する必要がある。ぼくらは鈴木さんには毎月、定期的に報告していた。もちろん、企画が進まない状況に、その都度、色々と怒られてきたわけだが。

 そのときは、まだK氏と一緒にやっていたある日のこと。

  鈴木さん「あのさ、お前ら、どんな顔で高畑さんと話してんの?」

  K氏「えっ、こんな顔ですが。」

  西村「うん、こんな顔です。」

  鈴木さん「だから駄目なんだ!そんな顔じゃ説得なんて出来るわけがないだろ。ちょっと真剣な顔してみろ!」

  K氏「えっ?ここで?」

  西村「いまですか?」

  鈴木さん「あたりまえだろ!やってみろ!」

  K氏「ムムッ」

  鈴木さん「ダメダメ、ぜんっぜんダメ!」

  西村「ムムムッ!」

  鈴木さん「お前さ、それ、ただ睨みつけてるだけだろ。」

  鈴木さん「あのな、真剣な顔を訓練しろ。本気の顔で来られたら、人間、やすやすとは断われないんだよ。お前らが真剣な顔で迫ったときに、高畑さんは引き受けるよ。結局、お前らがその顔が出来るかどうかなんだよ!」

 ぼくらは訓練した。しかし、いくらやっても、チンピラが睨みつけているような顔にしかならなかった。とくに、K氏の顔は、故・横山やすし師匠にしか見えなかった。

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