映画「かぐや姫の物語」制作時に、auスマートパス会員向け
スタジオジブリ公式読み物サイト「ジブリの森」において連載された
「かぐや制作日誌 “悲惨な日々” 西村義明」(2013年4月15日~9月1日)を再録

かぐや姫の物語 ポスター このお話を聞いていて、どう思われたか。かなり荒唐無稽な、ナンセンスなお話です。こんな意味不明な原作を、商業映画にしようと、ましてや、超大作、娯楽作品に仕立て上げようと考えたのが、齢77歳の高畑勲監督です。

 ただ、実は、この企画を高畑さんが考えたのは、今から50数年前なんです。当時はまだ20数歳の青年・高畑勲。彼は当時ですね、東映動画というアニメーションスタジオにいました。その横っちょには、東映っていう映画会社がありまして、そこに内田吐夢(ウチダ・トム)という高名な映画監督がいらっしゃったんですが、その監督がですね、東映動画に遊びに来た。それで、若いスタッフに向かって「私はかぐや姫の映画を作ろうと思う。ついては、みんなで企画を考えてほしい」と言うんです。

 それで、高畑さんもいろいろ考えたみたいなんですが、それを映画にすることがないまま、「かぐや姫」の企画は雲散霧消していく。

 それから月日が経ちまして、10年経ち、20年経ち、高畑さんはスタジオジブリで長編を作っていきます。そんな中、今から8年前とかかな。鈴木さんに僕が呼ばれまして、「おまえ、明日から高畑さんの担当しろ」って言われて。「企画は?」って聞くと、「かぐや姫」って言うんですよ。

 で、ぼく、これ、率直に言います。それを聞いたときにですね、なんで今更ね、いま、スタジオジブリが「かぐや姫」なんか作るんだって。おそらく、ここにいらっしゃる方の中でも、多くの方が思ってらっしゃるかもしれません。ぼくも思いました。なんで今、かぐや姫なんか作るのかって。しかも、スタジオジブリが。

 ぼく、それを率直に聞いたんです。高畑さんに会ったときに。「高畑さん、なんで今、かぐや姫なんですか?」って。そう言ったらですね、高畑さんっていうのは、ムッとするんです。そういうとき。ムッとすると、一種の狂気っていうんでしょうか、狂った気って書いて狂気を帯びるんですよ。すごいオーラをおびて、怖いんですよね。で、こう言ったんです。

「あなたは、かぐや姫を知っているんですか?」

(続く。)