驟雨 | Studio Forest ・・・ 森に暮らす

驟雨


お昼ご飯を食べて、残ったご飯で握り飯を作って

さあでかけようとザックを肩にかけたとたん

さわさわと森が騒ぎだす


テラスの床板に一つ二つと雨粒が落ちたと思ったら

見る間にすっかり濡れて

景色が白く霞む

軒から落ちるしずくが

銀色の糸のように繋がって

タカタカとリズミカルな音を立てる


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出鼻をくじかれるとはこのことです。一気にモチベーションが下がった私は、「うそだろ・・・」とつぶやきながらさっきまで座っていたデッキチェアに腰をおろし、ネットで雨雲の様子などを調べたりしました。
疾雨だったのでしょう、1時間ほどで雨は止み、しばらくすると青空になりました。


午後遅くなってから山に入りました。
地元の山の長老に教わって、ある「木」を探しに出掛けたのです。

「いいか、目印は栂林だぞ」

いまはもう、自分の足で山へ入ることができないその方は、若かりし頃に八ヶ岳を歩き回り出会った数々の樹木や野草、生き物たちに思いを馳せるように、詳しくその場所を話してくれました。
おそらく、森の様子は変わっているでしょう。森は生きています。
もしかしたら、その方が思い入れのあるその「木」も、見つからないかも知れません。
でも、目を輝かせて語るその話を聞いていると、きっとあるという不思議な確信みたいなものがわいてきました。



落葉樹の森を抜けてなお登っていくと、あたりは美しい唐松林。山の斜面にはクマザサがふくよかな薄緑の絨毯のようになって、そこからすっと真直ぐのびる唐松の幹たちは凛としていて清々しい。
しかし、いけどもいけども栂林は見当たりません。あきらめかけた頃、目の前に一抱えはあろうかと思える栂の大木が現れました。そこからは、栂も含めた混成林になっています。
この辺だなと森に分け入り、立ち止まっては周りの木に目を凝らす。

果たしてありました、その「木」が。見上げるような大木。

私はうれしくなってしまいました。
数十年前の記憶をたどりながら話してくれた、まさにその場所に、時を越えてしっかり地に足をつけて踏ん張っているその「木」。
風雨に堪え厳しい生存競争を生き残り、なお天に向かって両手を広げ続けるその生き様と、そんな一本の木を、次の世代に伝えようとした山の長老。
私はしばらくその場所を動けずにいました。

山から下りてきて、その足で長老のお宅に寄りました。
私の顔を見るなり「見つかったか!」と満面の笑み。やや顔を紅潮させてその場の様子を聞きながら、満足そうにうなずいておられました。


「木」が具体的にどんな木なのかは、ここでは書かないことにします。
八ヶ岳のみに自生する特異な種とだけにとどめさせて下さい。

私も、次の世代にこの「木」のありかを受け渡すことができますように・・・