( 広島最後の日 )  

丁度、一年前の今日。 七月二十六日、その日の始まりは晴天だった。
昨日引っ越し屋が荷物を運び出し、家族は小倉に移動した。
私は二十六日にバレンさん達のライブ鑑賞の約束があり、
二年間お世話になった舟入のマンションにもう一晩だけ泊まり、明け方伽藍堂の部屋の戸締りを済ませ楠木町にある事務所に向かった。


人生を賭けるつもりのWEBチャンネルを会社側から一方的に反故にされたのがこの年の四月、今でも荷物は山の様に置いてあるが、

もはや通う必要の無くなったイマジンと言う名の映像制作会社にその日使う予定のビデオカメラを取りに行ったのである。

ライブは夕方から、急ぐ必要も無い。時間はたっぷりあるので一度行ってみようと思っていた横川駅の近くのパン屋で

モーニングを食べる事にした。

 


スーパーマーケットFUJIの入り口傍にある「Bon-bon」と言う洒落たベーカリー併設の喫茶店だ。
窓際の席でサンドイッチを頬張り、夏以降の予定をスマホのカレンダーを見ながら計画していた時、窓越しに外の通りに

十人近い警察官が自転車や小走りで進んで行くのが見えた。
暫くしてコーヒーを口に運んだ時、
先ほどの警察官達が二、三人、スーパーの入り口に入って行った。
そして残りの七、八人ほどが喫茶コーナー側の入口、つまり「Bon-bon」の店内に入って来たのである。
「何だろう、巡回かな」

と思いながら何とは無しに彼らの方を見ていたら全員がつかつかと私の前に七人揃った。
「ちょつとよろしいですか」  と年長の警察官が私に話しかけてきた。
「何でしょう」        と私が言うと
「通報がありまして、人相からして、貴方の事だと思われます」
「それはつまり髭面だということですね」   と言う私に言葉には答えずに
「窓から外を通る女性の撮影をしていましたね」と言うのである。
「いいえ」「モーニングを食べていただけです」と笑っていると
「スマホを拝見してもいいですか」

とテーブルにある私の携帯を取り上げ様とするので手で制して
「写真ですか、動画ですか?」と言いながら自分でスマホを取り上げ、

画面を彼らに見える様に、百枚近くの写真をスクロールしながら示した。
「新しいのは?」
「ロールの最後、下の方です」

と言いながら一枚ずつ拡大すると、左隣の若そうな警察官が
「僕が見ます」と言いながらスマホを私から取り上げ七人全員で中身を見ていた。
「(最近削除した項目)を見ます」と言いながら色々見ていたが

どうやら彼らの考えていた写真が見当たらない様で、
当てが外れたのだろう、何となく不機嫌な顔になっていた。

携帯スマホを私に戻しながら
「何をされている方ですか?」と聞くので
「一応、映像作家の端くれのつもりです」と言うと、若い方の一人が
「あ、わかります、先ほどの動画、綺麗ですね」と言うと、別の二人ほどが頷いた。

 


それを聞いてますます不機嫌そうになった年長の警官が、振り返りながらスーパー側にいた警官に手を振りながら

引き上げのサインを送っている。
気まずい時間が暫く続いていたので私から切り出してみた。
「もしも、このスマホに女性の写真が有ったとしたら、私はどうなっていましたか」
「警察署まで連れて行かれたのですか」
警官の困った顔にめがけて
「後学の為にお聞きするのです」「どうですか」と問うと
「あなたは関係ありませんので心配しなくて結構です」と全く答えになっていない。
「逃げも隠れもしませんから、何かあったらここに電話下さい」
と年長の警官にイマジンの名刺を渡した時、

それを見た先ほどの若い警官が
「あっ、同じ・・・」と言いかけたのを誤魔化すように、
言葉をかぶせながら
「お手数をかけました」と振り向いて、ゆっくりと帰って行った。

私、店の客、スタッフ、そこに居た全員が、何となく居心地の悪さを感じながら
謝罪もなく帰っていく警官たちを眺めていた。

 

もし私のスマホに綺麗でセクシーな女性の写真でもあったら・・・

こんな事から冤罪は生まれるのだろう。

広島と言う街は最後の最後まで私には無礼であった。