STUDIO-RELEIVE       #009「美の代償」


明日から理想の顔を手に入れられるとしたら、あんたならどうする?

まぁプチ整形でもダウンタイムはあるから、明日は無理でも腫れが引くまでの3日後でいいや。


生まれ変わったあんたが鏡の中で笑ってる。ハリウッド女優のような理想的な幅広二重が簡単に仕上がるんだ。

お代は両方のまぶたで一万円と少し。格安だよな。

あんたが女なら、アイプチやメザイクを使って毎日苦労していたメイク時間も一気に短縮出来るだろう。目だけはすっかり北川景子だ。


逆にあんたが男なら、ちょっと想像してみて欲しい。

ガールフレンドが、仕事で稼いだお金を握りしめ、どうしてもプチ整形したいと言ったら、あんたはどうする?

彼女は美容整形についてネットで完璧に調べあげていて、その決心はフランスパンのように固い。




日本の美容整形市場は年間2千億円。

毎年数十万人の若かったり、そうでもなかったりする女たちが、プチだったりメスを使うような本格的な整形手術を繰り返している。

しかも最近じゃ、小学生に整形をさせる親もいるんだから驚きだ。



もちろんプチならお気楽かも知れない。

だが、それをやめられない習慣になり、数百万もかかるほどの、手術というより工事みたいな事態にまで発展するとしたら、あんたはどうする?

好きな女の顔が、数十万円の手術のたびに別人になり、芸能界で流行中の平均的ハーフ顔に近づいていくんだ。

そこで生まれてくるのは、単に顔の美醜という表面的な問題じゃない。




俺たちの顔は
いったい誰のものなんだろう。



自分のもの?愛する誰かのもの?



それとも日々変化する
美の基準を定める指標みたいなものか?



なんだか為替マーケットみたいだよな。


ひとたび顔の話を語り始めると、こんなふうに議論は収拾がつかなくなる。

それだけ俺たちは、自分の顔についても他人の顔についてもわからないということだろう。

まして好きな女の顔なんて、わかるはずもない。



ちなみに俺はあんまり顔には興味ないんだ。

鏡を見るのは電動シェーバーでヒゲを剃る、朝の数十秒くらいのもの。

それは異性でも変わらない。好きになった女の顔が好きなのであって、好きな顔をしてるから女を好きになるということはない。


男が女を選ぶときって、
みんなそんなものだろう。


自分ひとりで揺るぎなく設定した美の基準に合わせて顔を改造するなんて、無駄な労力だと思うんだけどね。