STUDIO-RELEIVE #009「汚れたネズミ」

どうして世の中には、甘い誘いに乗るヤツが後を絶たないんだろうな。
今から二十数年前。
マルチ商法の全盛期だった頃、都市部のファミレスでは、席の8割が物販の商談客だったそうだ。
それから何年か経つと、警察のお達しで勧誘目的の客は、店側が追い出せるようになったが、物販の手法は集団セミナーへと形を変えて、より周到な戦略で多くの被害者を生んでいる。
マルチ商法の仕組みは簡単。
まず元となる商社の会員となり、商品を購入する。そして今度は自分が新たな買い手を探し、商品が売れれば上位の会員にマージンが入るっていう、実に単純な話。
もちろん、ここまでは合法だ。
違法性が問われるのは、強引な勧誘や利益の誇張で相手に不利益を与えること。
そして「無限連鎖講」も非合法にあたる。
いわゆるネズミ講ってやつだ。
無限に子が増える仕組みは、一見すると恒久的に利益が出そうにも思えるが、子が増えれば増えるほどマージンはしぼみ、必ずどこかで破綻する。この点が詐欺にあたるのだ。
実際には販売元の経営が自転車操業であるにも関わらず販売契約を結ばせ、マージンも払わず雲隠れしてしまったケースも多い。
警察に被害を訴えたところで、クーリングオフをする相手が見つからないのだから、どうしようもない。
大金を騙し取られたヤツにとって、「騙される方が悪い」って言葉は、ひどく残酷な言葉だよな。
冬の寒さが間近に迫る11月。
今回の物語は、超タイムリーなネズミ退治の話。この街に移り住んで、何度か目のトラブルシューティングだ。(事の発端はひとつ前の話を読んで欲しい)
言っておくけど、俺は半グレでも本職でもない。どこにでもいるフツーの社会人だ。
ストレスにまみれた仕事で、安月給にもめげず毎日真面目に汗をかいてる。
ただ違うのは、なぜか俺は昔からおかしなトラブルばかり引き寄せるってこと。
気色の悪いストーカーと対峙したり、DV夫から逃げる手伝いをしたりってね。
まぁ、そのおかげで心のこもった「ありがとう」をいくつも貰えてきたんだ。
俺のくだらない人生も
決して悪くはないと思ってるよ。
November.15 PM3:00
in 隣市 某ファミレス
よしこ(仮名)「何、どういうこと?なんでここにいんのよ。あんた達が呼んだの?」
山田「……………」
リエ「……………」
あきら氏「この子らは俺の部下。なんで来たか分かるよね」
ヒデアキ(仮名)「……………」
よしこ「ちょっと。なんでこんなマネすんのよ。せっかくいい話教えてあげたのに」
山田「……………」
リエ「……………」
※「まだこんなことやってるワケ?」
ヒデアキ「……………」
よしこ「だって、頑張って売れば、勝手にお金が増えるんだよ?良い話でしょ」
※「ネズミ講で良い目を見るのは一部だろ。子が増えれば破綻するって教えたのか?」
よしこ「ちゃんと営業すれば、そんなことにならないわよ」
※「この子らが強引な勧誘をはじめて、犯罪者にでもなったらどうすんだ?」
よしこ「知らないわよ、そんなこと」
あきら氏「あんたらもこれを売るのに必死なんだろう?30も歳の離れた相手を騙すんだからな」
よしこ「……………」
あきら氏「あんたらが買わせたアクセサリーは返品だ。ローンは来週中に解除しろ」
よしこ「今さら出来ないわよ。もうキックバックもらっちゃったし」
あきら氏「聞こえないのか?クーリングオフだと言ってるんだ」
よしこ「だからムリだって!」
※「………………」
あきら氏「あんたの家は知ってる。不倫相手と悪どい仕事をしてると、旦那が知ったらどうなる?なんなら今回は刑事を聴取に行かせてもいい。」
よしこ「脅す気?」
※「はじめたのは、あんたらだ。俺らは10年前にもやめろと言ったよな?」
よしこ「そんなの忘れたわよ」
あきら氏「覚えてなくても今回は手を出した相手が悪かったな」
※「片井(仮名)にも伝えろ。俺らは仙台の会社も知ってる。終わるまで徹底的にやると話せ」
あきら氏「前株と後株の違いで紛らわしい社名にして人を騙してるんだ。芸能人とのパーティ写真も捏造なんだろ?」
よしこ「ぜったい許さないから」
あきら氏「誰が許せと言ったんだ?」
よしこ「上に言って痛い目遭わせてやる」
※「おい。録音してるって気づいてるか?」
よしこ「あ……」
ヒデアキ「…………チッ」
あきら氏「いつまで黙ってんだよ?」
ヒデアキ「あー…うるせぇな。わかったわかった。ローン解除して金は返すよ…クソめんどくせぇ」
あきら氏「いつだ?」
ヒデアキ「来週な」
あきら氏「頭金は今日中に返金しろ。俺らもヒマじゃない」
ヒデアキ「持ち合わせがねぇんだよ」
あきら氏「くだらないこと言ってると警察呼ぶぞ」
ヒデアキ「………。今、いくら持ってる?」
よしこ「ヤダよ、あたしだって無いよ」
ヒデアキ「出せよ、すぐ返すから」
よしこ「もう最悪……」
ヒデアキ「ほらよ」
山田「……………あざす」
あきら氏「契約解除したら文書で知らせろ。あとこの子らには金輪際近づくな。無視したら警察だからな」
ヒデアキ「ああ…」
※「じゃあ帰るか」
よしこ「しね」
あきら氏「いくつになってそんな言葉使ってるんだかな。見苦しい」
※「あんたも落ちたね。残念だ」
山田「ありがとうございました、ホントに」
リエ「ありがとうございました」
あきら氏「続けてたらキミの彼女もあんな風になってしまうんだぞ。イヤだろ?」
山田「はい…」
※「あれでも知り合った頃は仲良かったんだけどな。あんな物に手を出さなきゃ、少しは慕ってやれたのに」
あきら氏「むかし、俺らはみんな同じ会社で働いてたんだ。ヒデアキが昼のリーダーで、彼が夜のリーダー」
山田「えー、そうなんですか?」
※「縁って面白いだろ?キミらも色んな人と出会うといいよ。人を見分けられるようにね」
あきら氏「じゃあ、契約解除したら連絡するからさ。一応、ちゃんと終わるまでは口座の預金はぜんぶおろしておきなね」
山田「はい、わかりました。よろしくお願いします」
※「スピード決着だったな」
あきら氏「二回目だからな。でも来てくれて助かった」
※「ていうか、ヒデアキの顔見たか?」
あきら氏「ああ、面白くない顔してたな」
※「そうじゃなくて。頬んトコに黄疸出てたろ」
あきら氏「え、マジで?」
※「肌も浅黒く見えた。肝臓やられてんじゃないか?」
あきら氏「酒飲みだったからな、アレ。」
※「……フツーに働けば良いものを」
あきら氏「養育費払いながら不倫だもの。安月給じゃ首が回らなかったんだろ」
※「昔は美男美女だったのに、あんな醜くくなってしまって」
あきら氏「なんか、ヘンな感覚だな。昔はお前が後輩だったのに、、」
※「なんつーか、手放しで喜べん。苦労を笑われてるようだ」
あきら氏「褒めてねぇからな」
※「あの頃は楽しかったよ。本当に」