2025.11.8 pm8:00 IN “S/B”



あきら氏「ジャックダニエル。ロックで」


※「俺も同じのください」





あきら氏「で、どう?最近」


※「どうもこうも。和気藹々で場違い感が増す一方だ」



あきら氏「ふふ。それは良いことだ」


※「どこがだよ」



あきら氏「普通でありたいだの、人との繋がりを大切にしたいだの言ったのは自分だろ?望ましい環境じゃないか」


※「周りの精神年齢が低すぎて困ってる」


あきら氏「そりゃそうだ。お前の場合、見知った人の数も多いし、次元の違う人間とも関わってきたんだ。比べるのはフツーだよ」



※「犬コロみたいな生き方だってのに、縁ってのは不思議なもんだよな」





あきら氏「でまぁ、そんな縁に恵まれたおまえに、久しぶりの依頼だよ」



※「ストーカー退治はもうたくさんだ。気持ち悪りぃから」



あきら氏「まぁ聞けって。ウチの若いカップルが、ねずみ講の詐欺被害にあって困ってんだ」



※「……………」



あきら氏「ふたり合わせて80万。強引にローンを組まされたらしい」


※「半グレ絡みなら警察行かせなよ」


あきら氏「大丈夫。相手は、またあのバカ夫婦だから」



※「……アレは半グレみたいなもんだろ。50も過ぎてまだやってんのか」



あきら氏「あいつらも抜け出せないんじゃないか?老いて物事の分別も付かないんだよ。どう?力貸してくんない?俺ひとりじゃ押し負けちゃうからさ」



※「ん〜。まずそのカップルの話を聞きたい。電話でも良いから話せないか?」



あきら氏「実はもう呼んでる。そろそろ来るよ」


※「なにもこんな店に呼ばなくてもいいだろ。ファミレスか何かにすりゃ良いのに」







男の子「あ、どうも。お疲れ様で〜す、、、」

女の子「お疲れ様です、、、」


あきら氏「お〜す。二人ともこっち座りなよ」



※「…………」



あきら氏「こっちが山田くん(仮名)彼女がリエちゃん(仮名)。で、こっちのしかめ面が…」


※「その前置き、もうやめろよ」



あきら氏「じゃあ愛想良くしろよ。それでスマイルのつもりか?」


※「はいはい。それで、買わされたのは奇跡の健康アクセサリー?」



山田「え…なんでわかったんですか…」


※「キミらで2回目ね。勧誘はガストでしょ?」


山田「は、はい。」


あきら氏「商談とか勧誘お断りのハズなのにな」



※「あの夫婦の他に、もう一人いたんじゃない?汚い笑い方するチリチリ頭とか」


山田「はい、いました。はじめはヒデさん(仮名)とよしこさん(仮名)からご飯に誘われて行ったんですけど、その人はあとから来ました」



あきら氏「やっぱり片井(仮名)も噛んでたな」



※「それで、泣き落としされたんでしょ?俺たちはこのネックレスに人生を救われたとか言って」



山田「言われました。ヒデさん急に泣き出して、、よしこさんも泣き出して、、わけわかんなかったっす」



※「同じだね。俺も昔、わざと勧誘されに行ったことあるんだよ。確かそん時はステーキ奢らせてやった」


あきら氏「わかってて行くんだから、大したもんだよな」


※「アレから誘いの電話もらった時には何注文してやろうか考えてたよ」


山田「最初っから怪しいって分かってたんですか?」



※「そらそうさ。香水まみれの面食い女と色気づいたノッポのコンビだ。健全な誘いのワケないだろ」



リエ「じゃあ…やっぱり私達のも詐欺なんですか?」



※「声大きいよ。店ん中は言葉も選びなね」


リエ「あ、すいません…」



※「お金欲しかったの?」


リエ「……………」



山田「俺が儲かるから二人でやろうって誘っちゃって、、、」



※「こんな可愛い子に借金なんか作らせて。お金をなんだと思ってるんだ?」


山田「…………」



※「いい?マルチはお金のために人を騙すものなんだよ?二人して捕まったらどうすんの?」


山田「…………」

リエ「…………」




※「山田くんさ。俺がこの子の父親だったら、どうしてると思う?」


山田「物凄く怒ると思います…」



※「ぶん殴ってるよ。謝っても許さない。キミ、それだけの事をしてんだよ?わかってる?」


山田「……すいません」




あきら氏「まぁまぁ。説教はそのくらいで。それで、買わされた物はまだ持ってるんでしょ?包装はそのままにしてる?」



山田「はい。一応未開封っす」


あきら氏「じゃあ、あいつらと会う時それ持ってきてよ」



山田「やっぱ…会わなきゃダメっすかね?すげぇ気まずいっす…」


※「返品するには、キミらの意志がいる」


あきら氏「心配しなくて大丈夫だよ。あの夫婦は一度懲らしめてるから、修羅場にはならない」


※「キミらはクーリングオフするとだけ言えばいい。あとは俺らが喋るから」


山田「…はい」




※「じゃあ、今日は帰んなさい。飲み代はいいから」


山田「あ、いや悪いですよ。払います」



※「悪いと思うなら、彼女に負わせた借金はキミが返してやりなよ」


山田「あ、いや…それは……ちょっと…」



あきら氏「冗談だよ。真に受けるな」


※「今回は助けてあげる。でも二度と女の子に借金なんかさせるんじゃない。いいね?」


山田「はい、、約束します…」









あきら氏「頭の悪いやつらのためにすまんね」


※「俺も頭良くないからいいよ。それにあの子らはまだやり直せると思う。どうしようもないバカだけど多分良い子なんだろ?」


あきら氏「うん。あの二人は無知なだけで、根は真面目で優しい。だから真っ当な道を歩かせてやりたい」


※「世の中の大人みんなが、あんたみたいだったら良いのにな」




あきら氏「あと俺さ…来年から山形に赴任すんだ」


※「…ということは」



あきら氏「うん。いよいよ支店長だ」


※「そうか。おめでとう」



あきら氏「来月ウチの連中が送別会やってくれるらしい。お前も来いよ?」


※「ああ。みんなの老けた顔が見れるなら」


あきら氏「みんな変わってないよ」



※「あのカップルも来るんだろ?さっさとカタ付けて、見送ってやらなきゃね」


あきら氏「頼んだよ」





※「つーかさ」


あきら氏「ん?」



※「俺らも歳取ったな」


あきら氏「ははっ。説教が年寄りみたいだった」


※「あ〜、やだやだ。俺もじじいまであと半歩だ」


あきら氏「まだ早えーよ。じゃあな」