先日のライブでのこと。


先の東京ツアーの帰りに秋葉原に寄り、低スペックながら私のボストン時代を支えてくれたPC(Windows/ME機種)をサポートすべく思い切って新たにパソコンを購入。

つい先日実家にある家族用のPCがHDごとクラッシュし、自身の旧マシンもHD読み取りエラーが頻発しているため、PC内のデータをすべて抱えたままクラッシュする前に救出する必要があった。

しかしこの作業に割ける時間も限られており、仕事で即使用するものばかりを優先的に移行するようにしつつ、今まで使用出来ていたソフトやアプリが立ち上がりさえしない可能性もあったのでこちらも急いで確認を行う。

ニューマシン(Windows/Vista機種)のセットアップ(周囲に誰も持っていないので誰にも聞けない)に随分手間取りつつ、外部出入力がUSB1.1のみという旧マシンから少しずつデータを取り出すという地味な作業に日々睡眠時間を取られ、やみくもに忙しいスケジュールに拍車をかけてしまっていた。


さて、この日は意外と交通状況が良好で、少し早めに現地に着いたのでコーヒーを飲みながら徐(おもむろ)にセッティングを開始。

程なくメンバーが集まり始める。

この時点でまだ異変には気付かない。

リハーサルがてらのサウンドチェックを一頻り終えるとバンドのギターが私の方へ駆け寄り、


「今日ドラムの彼の様子が少しおかしいんですよ、右手と右足が思うように動かないらしくて。なので演奏面で今日の所は大目に見てやって下さい」


と私の耳元で一言囁いた。

ふと彼の方に目をやると、顔色は悪くずっと俯(うつむ)き加減でぼーっと一点を眺めている。

心配になり話しかけようとしたが、客入れの時間を既に過ぎておりステージメイクの関係で後で話しかける事にした。

今から思えばこの時に話しかけておくべきだった。


お客さんが続々と店内へ。

顔見知りのお客さんに話しかけたりメンバーと雑談しているうちにファーストセットが始まった。

私は朝から別の場所で演奏の仕事をしていた関係で参加できなかったのだが、私以外のメンバーはスタジオで2時間程リハーサルを積んで本番に臨んでいたらしく、その場で決まっていたであろう曲順や構成通りにライブは進行していく。


ファーストセットが終わり、控えテーブルに引き上げてくるタイミングでドラムと少し会話。

明らかにさっきよりも顔色が悪い。

大丈夫かという問いには何があっても必ず大丈夫と答える彼に、


「どの曲なら叩ける?」


と尋ねる。

普段なら笑顔で「大丈夫です、こんなですが出来る限りの事はします」と返してくる彼が、しばし無言で考え込む様子に一同がようやく事の重大さに気付く。

セカンドセットは彼を全面的に休ませる方向で急遽ラインナップやアレンジを練り直す。

そしてたまたまお客さんの中に脳神経外科医が来ていたので応急で診断してもらうも事態は思ったより深刻な雰囲気だった。


セカンドセットを何とか乗り切り大急ぎで撤収し、ギターと一緒に彼を急いで病院に連れて行く。

この時間にCTを動かせる病院が近くに無く、出来る場所があってもそこには運ばない方が賢明だとさっきの彼が教えてくれた。

家に帰して翌日ちゃんとした病院に行かせる手もあったのだが、脳に直接の原因がある可能性があるとなると次の瞬間何が起こっても不思議でないと思い、無理を承知で既に帰路に就いていたその彼にCTを動かせないか電話で尋ねたところ、枚方まで来てくれれば急遽駆けつけてくれるという事だったので車を飛ばして約2~30分程で病院へ担ぎ込む。

暫く経って医者の彼が到着し、間もなく彼を検査し始めた。

放心状態で落ち着かない私とギター。

検査が一先ず終了し、最悪の展開も考えて明日の夕方に大掛かりな再検査をするという事で一旦我々は引き揚げることにした。


ギターを家まで送り届けた後の帰りの車の中で一人、バンドの最年長者として自分が取るべき判断が誤っていなかったかを自問自答していた。

サウンドチェックの時点で気付く事も出来たはずだし、ファーストセットを終えた時点でも彼を入院させる事は可能だったかもしれない。

こんなに精神的にも体力的にも余裕の無い切迫した毎日を送っていて、いざという時に正しい判断が出来ているかどうかの自信が持てないでいるようでは、いずれ取り返しの付かないような大きな失敗をしてしまうかもしれないと痛切に感じていた。

今年の元旦に立てた計を有言実行すべく今までに無いペースで邁進してきたが、やはりこのままの生活を送るわけにはいかない。

今年の下半期からは、もう少し気持ちに余裕のある自分らしいペースで生きていこうと思う。


後日ギターから連絡あり、彼は脳腫瘍だと診断されたようだった。

担当医をしてやはり即座に彼を病院に運んだ事は正解だったが、今後ドラムを叩けるようになる可能性は極めて低いという内容だった。

余りのショックにしばらく言葉が出なかった…。


今後何があろうとも、今自分がこうやって音楽が出来る幸せを忘れてはいけない。

誰かを幸せにすべく、彼の分まで頑張ろうと思う。



どうか彼と再びまた音楽が出来る日が来ますように…。