小さい頃よく一緒に遊んでいたいとこ(弟)が、今日生まれて初めてアコースティック・ギターを片手に人前に立っていた。
それは、その姉の結婚式でのこと。
三ヶ月ほど前、祖母の卆寿祝いの席でそのいとこ(姉)が
「結婚式の披露宴で是非演奏して欲しい」
と私に頼んできた。
二つ返事で快く引き受ける。
当時その場に居合わせた彼が、昔バンドでエレキギターを弾いていたのを思い出し
「一緒にやるか」
と冗談半分で声をかけた。
ブランクも長く、歯科医になるために大学に行き直し、今が最も忙しい時期である事を知った上での冗談だったが、彼もまた二つ返事でその誘いを引き受けてくれた。
姉の為に自分も何かがしたいという気持が、その返事には篭(こも)っていた。
そして私はその彼女の為に時間を見つけては曲を書き、彼も時間を見つけてはギターを練習した。
本番四日前、曲を書くにつれイメージが固まってくるその段階で、エレキギター(エレキ)では表現し切れない箇所が出てきた。
彼は今までにアコースティック・ギター(アコギ)を手にした事がなく、もし弾く事になってもエレキに比べて弦が硬くて太いため演奏難度が一気に倍増する。
しかし、そこで一瞬よぎる記憶。
我々がまだ幼い頃、彼らの父(私の叔父)がよくアコギを掻き鳴らし、それが子守唄代わりになっていた事があった。
「よし、アコギでいこう」
と彼を促すと、彼は黙々とアコギを練習した。
そして本番当日、彼は父のギターを抱えて現れた。
その手はタコで膨れていた。
午前八時に初めて二人で音を合わせ、その後会場へ。
もし私が彼ならば相当緊張しただろう…。
式の最中も気が気ではなかっただろう…。
本番直前、披露宴会場でプレッシャーに押し潰されそうになっている彼に酒を注ぎ
「どんだけ間違っても平気や、間違う事を前提に曲を作ってある」
と真顔で告げる。
"Only for a story"というソング・タイトルは、文字通り彼女達に捧げるために書いた曲である。
それを彼が弾くという事自体に大きな意味があり、彼女の表情と会場の雰囲気が彼に味方しないわけがないと思ったからだ。
そして本番、彼は何一つ間違うことなく完璧に弾き切った!
最高の瞬間だった。
当の本人はマイクを渡されるも話そこそこに恥ずかしそうに席に引っ込んだ。
それでも、開放された時の彼のほころんだ表情が全てを物語っていた。
披露宴が終わり、彼は私にこう耳打ちした。
「またギターを始めようと思う」
もはや涙無しで返事をする事は出来なかった…。