世間一般の人々は憲法や刑法などに比べ民法への関心が低く、また、法学部生でも民法に親しみを感じている学生はさほど多くないように思われます。


ぼくは主に民法学についてのブログを書いているため、なかなかに悲しい現状です。


これはなぜなのか。考えられる要因をまとめたいと思います。



①世間一般の人々にとっての理由

  憲法や刑法などに比べイメージが湧きづらい

憲法は「法の支配」という原理に基づき、国家の恣意的権力行使を抑止し、国民の権利利益を守るという使命を背負っています。


そのため、否が応でも政治との関係が強くなります。例えば自衛隊の合憲性、集団的自衛権の合憲性は憲法9条が、一時期議論を呼び起こした学術会議会員任命拒否問題では憲法典における「任命」の意義が、それぞれ問題となります。


また刑法には、殺人罪や窃盗罪、傷害罪など、具体的にイメージが湧く規定が多く、また我々の行動規範であるという感覚が他の法に比べ強いであろうことから、こちらもイメージが湧きやすい法律です。



対して民法と言われるとどうでしょうか?



実体験になりますが、いきなり「民法」というワードを出しても?という反応を受けたことがあります。


その方は「ああ、民事・刑事の民事ね」と、刑事事件を思い浮かべることで、それとの対比から民法の意味をなんとなく理解した様子でしたが、では果たして民法について具体的イメージが湧いたのでしょうか。



おそらく皆さんが民法・民事事件と聞くと、借金の返済や遺産相続などをどうにか思い浮かべることが多いかと思いますが、そうしたトラブルは「自分には関係ない」という印象を受ける方が多いと考えます。



つまり、憲法や刑法は我々の生活に直に関わってくるという感覚があるのに対して、民法はどこか遠い世界の話であるという感覚が強いと思われるわけです。



②法学部生にとっての理由

  ​内容が複雑・難解である

法学部生の方だともう既にご存知の方もいらっしゃると思いますが、民法は「民法総則」と呼ばれる規定群から学習が始まります。


しかし、民法総則は民法のあらゆる規定の元となる原則ですので、その分やや抽象的な規定ぶりになっています。


例として、民法(もっというと私法全般)のあらゆる場面に関わってくる「無効・取消し」という概念を説明すると、無効は「最初から法律行為の効力が発生しないこと」であり、対して取消しは「無効を擬制する」つまり「最初から法律行為の効果が発生しないこと「にする」」ということです。


この説明だけでも苦手意識を喚起してしまいがちなわけですが、これらについて具体的な説明をしようとしても?となる方が多いわけです。


というのも、例えば「人を殺す代わりにお金を払う」という契約が結ばれそれが実現された(厳密に言えば各債務が履行された)場合、事実としては人が殺され対価が支払われているわけですが、法律的には民法90条を根拠としてそれらの意思表示の効力は「最初から」なかったという評価を受けるわけです(取消しについての具体例は省きますが、これだと取消しの方がなかった「ことにする」という点でまだ実感が湧きやすいかもしれませんね)。



このように、売買契約や賃貸借契約といった我々の日常生活に溢れる法律問題からやや離れたところから学習がスタートするため、苦手意識が湧きやすいのだと思われます。



加えて、民法総則をクリアしたからといってその他の民法の規定が簡単かと言われれば、そうでもないのです。


例えば物権法だと所有権の二重譲渡や対抗関係が本格的に出てきますし、担保物権法は法律構成がやや複雑になりがちですし、債権総論も総論であるが故やや難解な規定ぶりとなっています(それらと比較し債権各論は簡単でしょうか。なお家族法は筆者はあまり詳しくないため難易度は測りかねますが、こちらもやや簡単かもしれません)。


要するに何が言いたいかというと、多くの法学部生にとって民法学は抽象的でとっつきづらいわけです。



  ​ではなぜ筆者は民法学が好きなのか

ここまで来るとなぜ筆者はそんな民法に関心を寄せているのか疑問に思われるかもしれません。



これについては(決して自慢ではないのですが)、筆者は難解で抽象的な理論を好む傾向にあるのが最大要因ではないのかと思われます。


民法は確かに具体的イメージが湧きづらいのもある程度共感はできるのですが、もはや抽象的な理論の集合体であると割り切って、大して実生活と結び付けずに考えているのです。


例えば債権譲渡に関する規定についても、刑法の殺人罪ほど具体的イメージは湧きません。しかしそれについての理論は理解できるわけです。


むしろ、抽象的で一見するとやや難解であることに魅力を感じている節があります。



  ​まとめ

民法は以上のように人々から大して関心を抱かれない法律です。


しかし、実生活において民法が関係しないということはきっとないでしょうし(物を買ったり部屋を借りたりするわけですから)、トラブルに巻き込まれたとき民法が役に立つ場面も否定しえません。


加えて、民法学の理論は確かに難解ですが、難解であるが故のおもしろさはきっとあるはずです。民法学のパズルのようなおもしろさを味わい、民法学への関心が高まる人が今後増えることを祈っています(もっとも、おもしろくないものをおもしろく感じるようにするというのは難しいので、あまり期待はしてません...)



ということで、今回の記事はこの辺で締めくくりたいと思います。ではまた。