それでは魑魅魍魎が跋扈する10位~1位、いきます。
10. Face Down in Meta / Pet Shimmers
ブリストルから突然現れたサイケポップ集団による1stアルバム。なんと秋には2ndまで出してしまいました。これ、ジャケだけ見るとすごいアングラ臭がしますよね。ところが音を聴いてみるとLos Campesinos!とかSuper Furry Animals、Neutral Milk Hotelとかを思い出すスーパーサイケポップで、ガシャガシャしつつも高揚感あってめちゃくちゃ良いです。たまに情報を見かけてもジャケを見て躊躇していましたが、思い切って聴いてみるともうメロメロに陶酔。2ndも良いですがまずは是非この胡散臭い1stからどうぞ。
9. Shadow Offering / Braids
カナダ出身のエクスペリメンタル・ポップ・バンドBraidsによる4thアルバム。エレクトロニックな要素とバンドのダイナミズムが融合した傑作"Deep In The Iris"から5年、新作が出ると知ってから次はどんな形になるのか楽しみに待ってました。そんな今作は、音とビートをシンプルに削ぎ落とすことでラファエルの歌がより自由度を増し、結果として全体のリアリティが強固になった素晴らしいアルバムでした。ハイライトは何といってもやはり3部構成9分の大作"Snow Angel"でしょう。雪国の静かな情景から始まる序盤、ラファエル自身の思いをテンションに任せて一気に吐き出す圧巻の中盤、そしてそこから突然解き放たれるような終盤。何度も聴いた名曲です。
8. Full Hand / Kevin Krauter
HoopsのメンバーであるKevin Krauterのソロ作品。今年名前をよく見かけたので聴いてみてびっくり、穏やかながらフックの効いたメロディに爽やかなコード感のあるシューゲイズサウンドが美しい、ずっと聴いていられるような居心地の良いアルバムでした。どうしても暗くなりがちなこのジャンルを風通し良く聴かせてくれるのは、もちろんサウンドだけでなく卓越したソングライティングあってこそ。アコギの透明感あるコードストロークが印象的な"Patience"は個人的にギターソロオブザイヤーに選出したいと思います。
7. American Head / The Flaming Lips
単純にリップスがこんな作品を作ってくれたことが心の底から嬉しい。2006年の"At The War Mystics"を最後にスタジオアルバムとしてはサイケデリックで原始的・宇宙的なグルーヴを追求する方向へシフトしたのでポップさという意味では(カッコいいとはいえ)物足りない作品が続いた。そしてコロナ禍の今年。届いたのは暖かくて切なくて他の誰にも真似できない唯一無二の音が鳴る、まさにリップスの音楽だった。変化を認めない頑固なファンみたいな言い草になってすいません。でもこの音と歌、リップスを好きで良かったとしか言いようがない。何気に全編がメロウでスロウな作品は初めてだけど、円熟したバンドの良さが存分に発揮されてて最高です。信者なのでこんな感想になりましたが世間の評価も悪くなさそうですよ。
6. Untitled (Black is) / Sault
今年大きな広がりを見せたBLM、その発端であるジョージ・フロイドの事件から1ヶ月も経たないうちにリリースされたプロテストアルバム。詳細不明のアーティストですがどうやらLittle Simz等をプロデュースしている人物が関係しているとのこと。納得のカッコ良さです。アフロビート、ヒップホップ、ポストパンクなどブラックルーツミュージックからロックまで幅広い要素を驚くほどシンプルに昇華させることで新しい音が生まれ、言葉数少ないながらも直球の歌詞がダイレクトに突き刺さる。英語がよくわからない日本人でも理解できるほどストレートな怒りに満ちた作品です。例えば4曲目でひたすら繰り返される歌詞は以下の通り。
Don't shoot, guns down
Racist police man
Don't shoot, I'm innocent
5. The Ascension / Sufjan Stevens
実はこのアーティストのこと全然知らずに聴いたんです。だから方向性が変わったことで賛否があったとしても自分にとってはこれが初邂逅、どっぷりハマりました。緻密に作り込まれたエレクトロニックなトラックに儚げでどこか寂しげな歌が乗り、感情の渦に飲み込まれていくように激しく展開していく冒頭の"Make Me An Offer I Cannot Refuse"から始まり、混乱する世界が皮肉的に、どこか冷めた視線で歌われていく。そして祖国アメリカへの複雑な思いが不穏な音へと収束していくラストの"America"でアルバムは幕を閉じる。何かが間違っていると感じてもそのまま突き進んでいくしかない世界への精一杯の抵抗のようにも聞こえます。個人的に凄く気になるアーティストの一人になったので過去作もこれからじっくり聴いていこうと思います。
4. Lost in the Country / Trace Mountains
NYベースのDave Bentonによるフォーキーなギターポップ・プロジェクト。個人的にはベルセバやルミニアーズを思い出す、スケールの大きなソングライティングセンスを感じました。作風的にずば抜けた曲があるというわけではないけどとにかくどこから聴いても曲が良い!音としてもカントリー/フォークとギターロックの間のちょうど良い所を押さえている感じで、今後も飽きることなく長く聴いていける作品だな、ということでこれだけ高い順位になりました。日本人好みでもあると思うので是非売れまくって欲しい!
3. Truth or Consequences / Yumi Zouma
ニュージーランド出身の男女4人組バンド。80sエレポップテイストのドリームポップという感じですが、抜群にクオリティが高い!透き通るようで優しいボーカルが甘くてどこかノスタルジックなメロディを歌い、ドリーミ―ながらも意外に輪郭がはっきりして重厚感のあるトラックがその歌の美しさを引き立てる。それがただ浮遊感ばかりを求めがちなドリームポップとは一線を画す点であり、スカスカのエレポップにならない理由であり、このバンドの確固たる存在感のサウンドを作り出しています。今年延期になりましたが来年のフジロックでこそ観られるのでしょうか!(時間的にも経済的にも行けない。) 冒頭の"Lonely After"からすでに名曲。狂おしいほど好き。
2. A Hero's Death / Fontaines D.C.
1stの時点で世界中のロックに飢えてる人達のハートを鷲掴み。このバンドとShameを中心としたアイルランドのロックシーンが注目されているわけですが、鉄は熱いうちに打てと言わんばかりの早さで2ndがリリースされました。1曲目"I Dont't Belong"の静かな始まりで期待がパンパンに膨らみ、2曲目"Love Is The Main Thing"でじわじわと加熱してくる手法に思わず椅子から立ち上がり、3曲目"Televised Mind"のベースラインをドラムが叩き割って入ってくる瞬間にたまらず両手を突き上げ、4曲目"A Lucid Dream"であまりのかっこ良さに泣き出す、といった感じです。わかります?あと念仏みたいに平坦でサイケなボーカルもゴリゴリ疾走するベースも前のめりなドラムも最高なんですが、このバンドの何が良いかって、ギターの音とフレーズが恐ろしくカッコイイです。もうこのサウンド・この音階しかないという必然性を出せることが良いギタリストの条件だと思ってます。
1. Suddenly / Caribou
そして今年他のどの作品よりもハマったのはCaribouの5年ぶりの新作"Suddenly"!これまでになくすっきりとして落ち着いたサウンドに変化した今作はまさに新境地。まず特筆すべきは音数が減った分一つ一つの音が明瞭になったことにより増したアナログ感。ピッチの揺らぎを効果的に使うことで不安定さ故の人間味が染み出ています。そこに乗ってくる、いつにも増して消えてしまいそうな繊細な歌。これまでの作品も物悲しさを含む作風でしたが、今作は聴いているだけで泣いてしまいそうなエモーショナルなアルバム。泣くことで感情を発散するというより、泣くことで収集がつかなくなった感情を拾い集めるような。また文章の意味がわからなくなってきましたが、エモいエレクトロニカとしての一つの完成形を見せつけた今作でした。最後に、このアルバムが大好きになる決定打となった曲を貼っておきます。あまりのカッコ良さに初聴きの時おしっこが漏れました。
というわけで今年のベスト20でした。音楽をきちんと聴ける時間も限られてるので、ほぼ新譜を聴くことに徹した1年でした。音楽の聴き方としては偏ってると思うけど、好きな作品が常にアップデートされていく感じは楽しくってワクワクしました。コロナ禍にも関わらず良い作品がとても多かったのでもっと書きたいけど、キリが無いからプレイリスト貼っときますね。それでは来年も良い年になりますように。