つま | Masahiro Yamazakiのブログ

つま

{151C558F-F819-4985-8B22-AE35B1116245:01}

今から9年だか10年前、魚売り場の裏で大根のつまをトレイに入れるバイトをした。
朝の4時半から9時まで大根のつまを入れながら感じたことは、何も考えないようにすることが最善の世界もあるのだということだった。

グッドウィルだかトータルサービスから派遣されてきた42歳の黒縁メガネの男性は、マスクを外してずっと派遣会社の悪口とG-SHOCKの自慢をしていた。俺の人生終わったよが口癖だった。

朝の4時半に支給されたビニール手袋は、7時には真っ黒になった。大根が入っている発泡スチロール箱のガムテープを剥がす際、ビニール手袋を外すのが面倒なのでそのまま剥がすのだが、これを何回も繰り返しているとビニール手袋が真っ黒になってしまうのだ。

それなら素手で作業したほうが衛生的にも能率的にも良さそうに思えたが、能率を上げたところで時給は1円も上がらない短期労働者だし、ビニール手袋は絶対に外さないようにと厳命されているので、直ちに思考をストップさせた。

1月4日、正社員らしき人が短期労働者たちを整列させ、売り上げが一千万円を突破しました!と喜色満面に宣言し、全員に拍手を強要したが、社員を除いては誰1人として喜んでいるものはなかった。乾いた拍手の音がガランとした通路で行き場を失っていた。私は品出しをする肉売り場の人を見ていた。

それから数週間後、自宅で刺身を食べるとき、刺身の下に敷かれた大根のつまを見た。乾いた拍手の音と、人形のように立っていた自分を思いだした。つまは一口も食べずに捨てた。