この本が出版された明治31年頃は、夏目漱石の坊ちゃんが出る数年前で、漢文形式の文語体、話し言葉の口語体と文章の形式が定まってなかった。
本書は口語文体(原書でも読み易いはず)で書かれていたものを「声に出して読みたい日本語」の斉藤孝が現代語訳したものである。
非常に読みやすい。
そして幕末から明治の激動の時代を生きた諭吉の生き様を記してある。
その正直で飾らない人柄から出る本音は、大変面白い。
この時代ヨーロッパに一回、西海岸そして東海岸とアメリカにニ回、合計三回渡航している。
当時の(現代でも)ヨーロッパやアメリカを見たのでは西洋かぶれするわけだ。
攘夷の志士に命を狙われても仕方ない。
暗殺は本当に恐ろしいと言っている。
腕に自信(免許皆伝)はあるが元来、争い事や喧嘩嫌い。
議論も好きでない。
静かに聴くタイプ。
いざとなれば、仕方ないが全力で逃げ回っていたようだ。
十四、五才まで勉強もせず、ボンヤリ過ごしていたが、ある時から突然猛勉強し始め自然科学や語学をマスターしてゆく。
地頭が良いのは勿論だが、迷信や因襲に全く惑わされない。
なるほどと思った事がある。
諭吉は、社交的で男女身分の別なく気軽に話し掛けるおしゃべりな人柄だ。
各界に親友と言える人脈をたくさん持っている。
しかし本当は表面ばかりで「この人の真似をしてみたい」とか「あの人のようになりたい」とも思わず、人に褒められても嬉しくもなく、悪く言われても怖くなく全て無頓着。
悪く言えば人を馬鹿にしていた。
小さい頃より喧嘩をした事もなく口ばかり達者だったと自分を評してる。
そして、何でも話せる大親友は要らないという。
友人だけでなく親兄弟などの親戚でもベタベタした相互依存の関係を嫌う。
女性は生涯 妻ただ一人。
子供を可愛がり、弟子を育て、時の政府に誘われても権力に興味を示す事もなかった。
やはり当然の事ながら俗人ではないのだ。
本書を書き上げた3年後の明治34年死去。
享年68歳であった。