警官は続けました。
「それから、お父さん(ハラ男)から電話があって、
後で来られるそうです。」
彼は間違いなく来るだろうと思っていたので、
私は驚きもしませんでした。
それよりも、彼が来たらどんな反応をするんだろうかと
そちらが気になりました。
十年以上も裁判で戦い続けて、しかも
この二年は 3男とは没交渉となっていたハラ男です。
いくら成人していたとはいえ、
傍にいた親はこの私なのであって、
子どもたちに何かあった場合の責任は私にあるとは思っています。
だから その私に対して 怒りを直接ぶつけてきても、
私はそれを受け入れる覚悟はできていました。
3男を守れなかったのは事実なのですから。
その警官は 我々の離婚騒動を直接担当した人ではなかったのですが、
ハラ男が私に対して起こした多々の訴訟や、
村人たちを巻き添えにした一連の騒動のあれこれを何となく聞いていたようでした。
幾つかそれに対しての質問も出て、
警官の予備知識が補足されたころにブザーが聞こえました。
ハラ男が到着したようでした。
まもなく、女性警官に誘導されて彼が狭い聴取室に入ってきました。
お互いに軽い会釈程度の挨拶の後、
予想に反して、これといって緊張が高まることなく
ハラ男の聴取がはじまりました。
けれど、やはりそれは長くは続きませんでした。
警官がこれからの手続き全般の話をしている時でした。
ハラ男が言いました。
「でも何でこんなことになったんだ。
1男が、3男は鬱だったっていうじゃないか!!」
鬱?
なにそれ?
それに1男が言ったってどういうこと?
後からわかった話ですが、
1男はもう5、6年は父親とは会っていなかったのですが、
3男の死亡が告知された後に、
彼の携帯にかけてきた父親と電話で話したらしいのです。
ただし、3男が鬱だなんて、
家でも外でも一度も出たこともない話なので、
なぜ1男がそんなことを言ったのか、
今でもまったく理解できていません。
けれどもその時は、話があまりにも突拍子もなかったので、
思わずジャネットと二人で叫んでいました。
「それは、ありえない!!」
それがハラ男の神経に触ったようでした。
「お前らは何でそんなことを言うんだ。
大体こんなことになったのは、お前らのせいだ。
お前らが 3男を殺したんだ。
これは自殺なんかじゃなくて、他殺だ。
すぐに 捜査依頼を出すぞ !!」
もはや、3男をどの様に送ってあげるかという趣旨で詰めていた話も
完全に中断してしまいました。
捜査依頼ということは、
警察としては一旦死因を振り出しに戻して捜査するということで、
死亡証明の用意をしていたにもかかわらず、
それはペンディングになるということです。
警察からの正式な死亡証明書がなければ、
3男を葬ってあげることもできません。
話をしていた警官は、
捜査を依頼するということがどういう手順なのかを
説明していたようでした。
けれど、ハラ男の勢いが収まる兆しはまったくなく、
罵声が繰り返されるだけでした。
我々はナタリの合図をきっかけに、立ち上がって、
早々に部屋を退出しました。
そして足早に警察の門から出た我々は、
転がり込むようにナタリの車に乗り込み、
シートにぐったりともたれながら、
打ち続ける鼓動を落ち着かせました。