私は風呂場から飛び出して、
玄関のドアを開けました。
制服の女性警官が二人立っていました。
「A街警察です」
一人がそう言って、ドラマでよくあるように、
警察手帳のようなものを提示しました。
私は彼女らの用事も目的もすべてわかっていたので、
変な話ですが、それを見るフリをしただけで、
実際は何が書いてあるかなんて見もしませんでした。
「3男さんのことです。」
「はい、昨日捜索願いを出しました。」
「では中でお話していいですか。」
私が彼女らを居間に案内すると、
年配らしき方の女性が 私にとにかくソファーに座るようにと促しました。
意外に冷静だった私は、
- ああ、これは卒倒とかしないように気を使ってるんだな
と思いながら、1男と並んでソファーに腰をかけました。
そして、目の前に立っている警官を見上げて、私が居住まいを正すや否や、
その彼女が言いました。
「今日お知らせしに来た件ですが、
3男さんが D村橋から投身自殺されました。」
自殺されましたという彼女の『過去形』の言葉に、
私の脳は一瞬にして凍りつきました。
ウォーミングアップなしの、ストレート直球でした。
なぜなら私はこの期に及んでもなお、
もしかしたら、3男がケガしているけれど、
生きているから迎えに行く、
みたいな話でもあるんじゃないかと、
どこかで期待していたのでした。
けれど、
やっぱり、、、、やっぱりダメでした。
もはや万事休す。
「もしかしたら」などという無駄な足掻きは
重い重い刻印によって
無慈悲にも押しつぶされたのです。
ただ その宣告があまりにダイレクトだったので、
私は取り乱す時間さえありませんでした。
「いつのことですか?」
「昨日の午後1時15分ごろ、
散歩中の人が見つけました。」
昨日????
はっとしました。
前夜 ナタリが警察に同行してくれた時に、
言っていたのを思い出したのです。
「今日の午後 出先から帰るときに
D村橋を通ったら警官たちが立ってたのよ。
まさか そんなことないよね・・・」
時間的には ほぼ間違いなく
それは3男のための警官だったのでしょう。
ただその時点で、そんなことはもう
どうでもいいことでした。
「実はお昼に、そんな事実は知らなかったのですが、
D村警察に私から電話して
あとで行くことになっているんです。」
「わかりました。
誰か一緒に随行してくれる人はいますか?」
「ご家族やお知り合いで
知らせる方には連絡してください」
「お母様には 我々がいる間に
お知らせした方がいいと思います」
「お友達が到着するまで、
我々はここにいますから」
その女性警官は、てきぱきと、
必要な事柄を次々にアドバイスしてくれました。
後から考えると、彼女らは
こうした残酷な宣告をするのに選ばれた人たちだったのです。
一般的に 辛い状況の人に寄り添うのに、
女性の方が適しているというのもあるでしょう。
彼女らは ただ伝達事項を業務として伝えにきただけではなくて、
それから予想される事態に
できるだけ対応するというのも大事な任務として
送られてきたのです。
後から友人たちが到着するまでは時間もあり、
彼女たちとはいろんな話をしました。
言葉も適切で、節度を知っている人たちでした。
3男が亡くなったというのは
現実として認識するにはほど遠い状態ではありましたが、
彼女たちがいてくれたことで、
心理的に助けられたのは確かです。
私は思いました。
この人たちは、
これまで どれだけ不幸の宣告をしに行ったのだろうか。
そして、
これからも どれだけそれが続くのだろうか。。。