私の頭の中には、
書き置きをしたものの、
携帯ととりあえずのお金ぐらいを手にして、
揺れる心を制御しきれずに
どこかを彷徨っている3男しか見えませんでした。
あの子に限って、
大それたことはできないから、
そんな決断力ないから…
第一、翌日になっても、
警察からは何の連絡があるわけでもなし。
それが何よりの証拠に思えました。
もう昼が近い時間になっていました。
最悪の場合、
朝方一番にでも何かの一報がくるかと身構えていたものの、
なにか気が抜けた感すらありました。
同時に、「連絡がない」ということが、
少なくとも3男がどこかに「生きて」いてくれているんだという証の様な気もして、
胸をなでおろしている自分もいました。
けれど どうにも落ち着かないので、
私は何度も3男の部屋を出入りしました。
机の上にあるのは カード入れだけ。
それは通学や学校関係のものなので、
置いていったのは不自然ではありませんでした。
前の晩は動転していて よく見えませんでしたが、
通学かばんも机の近くに置いてありました。
何気なく開けると、教科書や本の間に、
分厚いお財布が出てきました。
少なくとも お金くらいは持っていったものと私は思い込んでいたので、
さすがにどっきりしました。
それよりも、その財布は、カードや証明書入れにもなっているもので、
それらの証明書類が、すべてそのまま入っていたのです。
唖然としました。
ガラスの板が、私の心の中でガラガラと崩れていきました。
どうしてそんなことに気づかなかったのでしょう。
3男が何も持たずに出て行ったということ。
それじゃあ
彼に身元を証明するものが何もないということ。
万が一何かがあったとしたら、
身元不明人ということになるだけじゃないの。
連絡が来ないのは当たり前のこと。。。
私は背筋が凍りついて寒気を覚えました。