老いた母はボケてもいるし、
年のせいで少しのことでも大騒ぎとなります。
だから、警察に行く時も
出掛けに彼女を安心させるために、
「大丈夫よ。3男くんは優柔不断だから。
変なことは絶対にしないし できないわよ。」
と、私はそんなことを口にしていました。
それはあながち嘘でもなかったのです。
よく言えば優しい。
悪くいえば、はっきりしないところが
3男にはありました。
日常のくだらない事を決めるのにも、
答がかえってこない。
(おいおい、YES かNOかしかないんだから、
はっきりしろよ・・・)
と、私は何度も思ったものでした。
基本的に 口答えをするのも稀でした。
少なくとも私の前では、
NOというのを聞いた覚えがないほど、
波風を立てない子でした。
私は思っていました。
あんな書き置きはしてしまったものの、
後悔してどこかをウロウロしているのかも。
だから、映画館での待ち伏せが空振りに終わった時、
3男が私の手のひらからすり抜けて、
知らない世界へ旅立ってしまったかのような感覚に襲われました。
いやいや、
3男くんは、そんな大それたことができる子じゃない…
家に戻った私は、もちろん
寝床に行く気力もなく、
膝を抱えたまま、ソファーに座っていました。
いつ3男が帰ってきてもいいように、
入り口の施錠は はずしておきました。
ただ 外に家の明かりが見えていると、
かえって中に入ってきにくいのかと、
部屋の電気はあえて消しました。
暗い中で私の頭の中を、
いろいろな思いが駆け巡りました。
映画を見たものの、
あとはやり残したことはないと、
隠れるように闇の中へ消えていったのだろうか。
まさか橋には行かないよね。
それは、街から少し離れたところにある
有名な観光スポットなのですが、
そこからの投身自殺者が絶えないという橋で、
奇しくも 子供たちはその村で生まれ、
大きくなったという場所なのでした。
そんなところをその時点で3男と結びつけるのは、
いささか乱暴にも思えることでしたが、
考えられるコマをたどっていくと、
思考がどうしてもそちらへ向かってしまいました。
どうしちゃったのよ、3男くん
不安のせいなのか、
涙が自然にあふれ出てきます。
ふと携帯を手にして、万が一にと、
3男の電話にSMSを送ってみました。
どこにいるの? ママンは君を探しまわったよ。
早くおうちに帰っておいで。外は寒すぎるよ。。
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