「これじゃないこれじゃない、これじゃない…!」
何か足りない…何かが。
無数に散らばる紙切れ達は無愛想に俺を見つめた。
「騙し続けてくれ…お願いだから…。」
『いつか別れは来るのかな?』
その答えは『Yes』。でも俺は『No』と答える。
離れたくないんだ。俺の瞳から、記憶から消えて失くなる…。そんなことは2度と御免だ。と本能が騒ぐ。
「俺は疫病神かよ…。」
何度も、何度もこの手に掴んでは離れる…いや、離した。離せざるおえなかった。そうなんだろう?
晴天に一人佇む太陽は微笑む。まるで全てを見透かすように下界の俺らを見つめ、燃やす。
「俺は何をしたい?」
そしてインクで汚れた手が持つのはやはりペンのみだった。
時が過ぎるのは早かった。
最初に載ったデビュー写真はたちまち話題になり、多くの雑誌からのオファーが殺到。
普通こんな風にトントン拍子で上手くいくはずがない。が、上手く行っているのが現状。
不思議な感覚だ。でも変わらない。何一つとして。
魔法は常にかけられて、自分は『道化師』として世間を騙す。そんな日常。
幾つものフラッシュが視覚を刺激する。自分を取り巻く人が増えることに身が強ばる。
しかし、子鹿さんと大喜はいつも一緒にいてくれる。どちらかが必ず隣にいて、自分が彼らに護られていることを知る。
相変わらず子鹿さんのメイクと撮影は繊細且つ大雑把。大喜の作る数々の服は個性的且つ大胆。知らずに自分も入れて3人共、名前は広がる。
それでも他に目を向けることなく、自分だけに全てを注ぐ彼らに自然に心許した。
「涙、疲れてない?」
「大丈夫ですよ?」
「この頃仕事多いし…いや、多いことは嬉しいんだけど、やっぱり涙の健康も大事だからね。」
「大丈夫ですよ子鹿さん。生活リズムがズレないように微調整だって完璧ですし、そもそも疲れてるの俺らですよ。」
「まあ、そうなんだけどね。」
「ごめんなさい…。」
「は?なんで謝るわけ?なんか悪いことしたの?」
「大喜。そうやってすぐ当たらないの。」
いつも通り。でも昔より遥かに明るい日常に笑顔も生まれる。
「明日久しぶりにオフ日にしたから、各自休息しっかりしてね。」
「「はい。」」
「……。とは言っても…。何もないと本当に無になるよね、涙。」
日にちが変わると暇な時が過ぎる。時計の音がやけにうるさく感じて部屋を出た。
「外は暑いな…。でもたまには新鮮だね…」
誰かいるわけではないが話しかけてみる。
「そうか?俺は暑いの無理。」
「!?」
思わぬ返答に勢い良く後ろを振り向くと大喜がずっといたけど?と思わせるような雰囲気で立っていた。
「そんな驚くこと?」
「いや、偶然過ぎて…。考えること一緒なのかな?」
「さあな。で、お前これからどっか行くの?」
「特にないよ?ただ部屋にいるのも暇だから散歩しようかなって。」
「ふーん。あ、そ。」
興味があるんだかないんだか…。そんな質疑応答に首を傾げる。
「あ、大喜は用があるんだね。じゃあ邪魔にならないように退散する…。」
「は?用なんてないし。ただブラブラ歩いてたらお前いただけだし。悪い?」
「いや、悪くないけど。」
刺々しい言葉を絶妙に躱し、気付けば大喜は隣に並んで歩いていた。
「そういえば…。なんかあっち側騒がしいね。…なんかのイベントかな?」
「イベントねえ…。俺そういうの興味ないんだけど。何?お前興味あるの?」
「ないけど。いつもと違ったから聞いただけだよ。」
目を凝らしてみないとわからないが遠方で人がたくさん集まっているのがわかる。野次馬も加えて、静寂な広場も一変して騒がしい。
「どうせどっかのロケで有名人でもいるんじゃね?」
「そうだね。…悲しいことに芸能に関しては疎いから。有名人とか言われてもわかんないだろうな。」
「俺も。そもそも、興味ないのに知ること事態面倒。」
大喜と何かと馬が合う。だから近くにいても安心するのだろうか。
そして不意に言葉が漏れた。
「…じゃあ大喜は何に興味あるの?」
「………なんだよ急に…。」
空気が割れる音がした。
何がダメだったのか自分にはわからない。でも彼にはその答えがあまりにも難しいみたいで…それ以上の言葉は紡がれなかった。
「すみませ~ん!」
「?」
突如背後から声が聞こえたかと思うと何者かに抱きつかれた。
「私の王子様になってくれませんか?」
「はい?」
抱きついてきたのは、人形のように綺麗なお姫様だった。
「大喜ー?あれ?いない…。何処行ったんだか。」
彼もある意味自由奔放だ。
でも前までは…前までは彷徨うように外をふらついていたが、今では檻に閉じ込められたようにずっとこの部屋に籠っていた。この違いはやはり彼女の影響か。
「敵だからけだな…。」
笑ってしまう。
知ってるんだ、兄貴の気持ち。大喜はどうだろう?感覚的に違う部類になったとしても結局は似たような感情だよね。そして僕は…──
「どれだけの人を虜にするつもりなのかな?」
『時が来るまで、側にいて』
その時はもう来たの?それともまだ?
「僕は…君が好きなんだよ。」