H20年早々の話である。今となってはだいぶ前のことか・・・

 

 ここ1ヵ月の間に、若手の踊り子さん三人のステージを拝見して、「黒」の魅力を考えさせられたので話してみたい。

 

 一人は、水野美香さん。H18年5月デビューの若手のホープ。

 昨年12月に新作を出し、今回1月の川崎ロックでじっくり観賞した。

 今回の新作は、黒い衣装で格好よくダンスを決めている。代表作「ポーラスター」のようなダイナミックなステージの印象がこれまで強かったが、一転してダンスを魅せるという路線。小林幸子のようにどんどんエスカレートしていくやり方もあるが、ストリップはやはりダンスの上手さで押すのがベーシックと思う。二年目だからいろいろ試行錯誤する時期かもしれない。

 最初のダンスでは、帽子を粋にかぶり、黒い衣装で身をくるむ。衣装のアクセントとして腰に巻いている帯のブルーが映える。美香さんにはブルーが似合う(名前が水野=ブルーのせい?)。黒の衣装のせいか、ダンスそのものがメリハリの利いたきびきびした直線系に感じられた。

 動きのいいダンスがあるからこそ、その後のベッドが落ち着いたものになっている。こちらも黒のシュールに包まれているせいか、沈静な趣きを漂わせる。

 最初にステージを観た瞬間に「黒」という印象が強く残ったので、すぐさま感想を美香さんに話した。美香さんから、今回のテーマは黒という返答があったときに、彼女がステージに託した想いがストレートに自分に伝わった喜びを噛み締めることができた。

 

 二人目は、今野梨乃さん。昨年10月にデビューした新人さん。

 今年のお正月に早くも二作目を発表。最初に真っ白なウェディング・ドレスで登場。幸せそうな笑顔を振りまいて観客を魅了。ところが、次の衣装は一転して、喪服をイメージした黒い衣装。黒いベールで顔を包んでいる。幸せな結婚が一転して愛する人を失った悲しみへ、そんなストーリーかと思えた。彼女に確かめたわけではないので当たっているかどうかわからないが、ずいぶん難しいテーマに挑戦したものだと思った。

 白から黒への変身、この白黒の世界は水墨画に通じる奥の深い世界とも云える。

 喪服の衣装は死をイメージさせるから、さらに強く沈静な雰囲気を感じる。その中に未亡人の色香まで漂わせている。真剣に演じている梨乃さんの目が観客の心を捉えて離さない。いい演技だ。とてもデビュー四ヶ月目の新人とは思えない。彼女も観客を惹き付ける類稀な資質を持っている踊り子だ。

 

 最後の3人目は、香椎杏子さん。2月頭の川崎ロックでデビューしたばかり。

 ポスターの写真から見て、異様な雰囲気、言い方が悪いがオカルトっぽいイメージを醸していた。実際に見てみないと何とも言えないので、未知の期待を胸に劇場に足を運んだ。AV出身でトリを張っているので期待が高まる。

 黒いジーンズの短パンに、黒いジャケットを羽織り、颯爽と登場。スタイルもいいし、ダンスのセンスがよく、軽快なダンスがかっこよく決まっている。

 妖艶な顔立ち。緊張もあるだろうが、表情は硬い。いや、このクールさが彼女の持ち味か。不思議なことに、彼女のステージには笑顔が似合わないと思った。ふつう新人がデビューしたら、笑顔が大切という話をするのだが、この子に限ってその常識はいえない。笑顔は彼女の醸す雰囲気を壊してしまう。だからこそ、黒の衣装がよくフィットしている。

ベッドでも、下着の上に黒のショーツをまとう。黒の衣装のせいか、貴金属のネックレスがとても映えていた。ベッド曲は、最近大ヒットしている徳永英明のアルバム、女性アーティストの名曲をカバーした「VOCALIST3」から安室奈美恵の曲「CAN YOU CELEBRATE? 」。徳永の哀愁漂う美しいハスキーボイスに合わせて、しっとりとベッドを演じている。思わずベッドに引き込まれそうな妖艶な魅力である。

かわいい系や癒し系が主流になっている最近の踊り子さんの中で、彼女の存在は非常に異色。ストリップ界に新風を巻き起こす魅力を覚えた。

 

 

 最近、身の回りにも黒が目立ってきている。ファッションでも黒を着こなせるセンスを持つ方は素敵だ。ファッションに限らず、和洋菓子に始まり、綿棒、まな板からトイレット・ペーパーまで黒の色が目に入ってくる。黒は今の流行なのか。

 黒という色は光を吸収する色。彼女達はわれわれ観客の視線をしっかり受け止め、ファンの心を離さない強い意志を感じる。

 黒という色は深淵な色。奥深い森の闇、深い深い海の底、無限の宇宙を想像する。彼女達に計り知れない大きな可能性を覚える。

 黒は不吉を連想させるところもあるが、そんなのは彼女たちのステージには微塵もない。彼女達の黒は明るい黒であり、非日常の粋を感じさせてくれるものであった。

 しばし、深遠な黒の世界を楽しみたい。

 これからも彼女達のステージから目を離せない。