鏡の中にうつるボクは、女の子だった。
太くて濃い眉毛は、今時の女の子としては、どうなのかなと思うけど、抜いたり、細くする気にはなれない。これも個性ということにしておいてくれ。
小学生の頃は、短かった髪も現在では、背中まで届く長さになり、ポニーテールに結わえてみた。本当は、ハサミで短く切りたいけど、出来ない。
親に言われたからじゃない。あの日をさかいにボクは、女の子のふりをしている。そういう風に生きるほうが楽だから。
もしまた、彼女に逢うこと出来た時、ボクはどうするのだろう?
「好きです。つき合ってください」って告白出来るのだろうか、そんな事は出来ない。同性でいれば、彼女の友人として、傍にいることが出来る。
臆病で誰からも嫌われたくない弱いボクは、これからも彼女も自分を偽り続けるだろう。
幼稚園の頃、自分のことを、「ボク」っていっていた。
でも自分のことを、「ボク」と呼ぶとお母さんと幼稚園の先生は、「女の子が、自分のことをボクなんていっちゃいけません」と怒る。
どうしてって、ボクが理由を訊いても、具体的な理由をこたえてくれたことがない。
周りの子も、「変だ」とか「おかしい」という。
「どうして?」と訊いたら、かえってくる答えは、たいてい同じだ。
「女のだから」
自分のことを「ボク」というと、昔は怒るだけだったが、この頃から、手をあげるようになってきたので、家では、自分のことを「アタシ」というようにした。スカートを穿くことだけは拒否した。正月やお盆などの親戚の家や親戚が我が家に集まる時は、仕方なくスカートを穿いた。
髪も短くしたいのに、母親は髪を伸ばしなさいというので、なかなか散髪にも連れて行ってくれないので、自分で適当に鋏で切った。当然、悲惨な髪形になるので、少しでも見栄えをよくするために、母親が仕方なく美容院に連れて行く。
何度もこんなことをするので、家中の鋏がボクの手の届かないように保管された。学校で鋏を使うこともあるけど、家に帰ると鋏を出すように言われる。素直に従わないとぶたれる。
ボクは、髪の毛を伸ばすようになり、穿きたくないスカートも穿いた。いずれ中学校に通うになれば、嫌でも毎日制服のスカートを穿かないといけないから。
女の子らしく振舞っていれば、両親から怒られることも、母親からぶたれることもない。むしろ、家での生活は快適だった。多少の我儘も許される。
学校での会話は、必要な連絡事項ぐらい。部活動もせず、学校が終わると家に帰るだけの毎日。
勉強は出来ない。出来ないといってもめちゃくちゃ成績が悪いわけでもない。取りあえず大学に進学することは考えていた。
夢も無いし、なりたい職業も無い。
高校は、大学に進学出来ればいい。大学も四年制大学なら、どんな大学でもいい。社会に出るまでに、時間稼ぎ出来るなら、出来るだけ時間稼ぎをしたいから。
高校は、女子校に決めた。ボクの偏差値でも入学出来る高校だったし、大学進学も可能。有名大学に進学することは無理だけど。
鏡の中にうつるボクは、女の子だった。
でも、これは本当のボクなんだろうか。あの日、失ったのは、大切な友達だけではないのかもしれない。