モンゴメリー:その愛と死
「愛した人はただ一人。」
モンゴメリーが14歳の時から書き綴った10巻に及ぶ長~い日記を読んでそう確信した。
それは若き日々の彼女の交遊録から始まっている。幾人かの少年少女とは、精神的で豊かな関わりを保っていた。長じてからは、当時、教えを受けていた高校の先生からの熱烈なプロポーズを始めとし、何人かの男性からプロポーズを受けたことなどが克明に記されている。
最初の婚約はシンプトン家の三男(またいとこ)エドウィンだった。彼はバプティスト派の神学生であった。
長男フルトン、次男アルフレッドも、またモンゴメリーに恋していたというから、三兄弟すべてが彼女の虜になっていたってわけだ! その魅力はどれほどだったのだろう? (アンに勝るとも劣らないようだ。)
彼女がエドウィンを選んだのは、三兄弟のうち 一番頭がよく、高い教養を受けていたからではなかったか。(おまけに、写真で見ると なかなかのハンサムでもある!)
23歳で密かにエドウィンと婚約したモンゴメリーは、その同じ年、ロウアー・ベディックという村の教師となり、そこで別の男性と激しい恋に落ちる。相手は下宿先の農家の息子、ハーマンという若者だった。
日記で見る限り、モンゴメリーが本気で「男性」を愛したのはこのハーマンだけではなかっただろうか。ただの無教養な農夫。エドウィンとは何もかも正反対のハーマン。
「フィーリングが合う」とでもいうのだろうか? 理性では受け入れがたい相手なのに「身も心も」吸い寄せられる----っていう厄介な情熱。彼女はコレに陥ってしまったのだ。
----で、その結果、彼女の選択は?
エドウィンには婚約解消の手紙を書き、ハーマンとも別れ、寡婦となった祖母の介護をするために、キャベンディッシュに帰って行ったのだ。(その翌年、ハーマンはインフルエンザのため死去)
わすか2年間で、自分の作品の世界を超えるほどの 究極の選択を迫られ、濃厚な時間を生きたモンゴメリー。
私たち読者は、婚約解消した「ロイ・ガードナー」の造形に、「エドウィン」の姿を重ねてしまう。(最初の高校教師はフィリップ先生というところか?)
しかし、彼女に魂をえぐるような思いをさせ この世を去ったハーマンの造形は、彼女の作品の中に見い出すことはできない。(それとも、どなたか見つけられました?)
ハーマンほど彼女が激しい想いを日記に綴っている青年は見当たらないのに----。おそらく、彼女はハーマンの思い出を日記の中に完全に封印してしまったのだろう。
彼女が婚約した男性は神学生エドウィン、最終的に結婚相手に選んだ男性はユーアン・マクドナルド牧師。このユーアンとは、彼女が祖母の介護をしている間に出会っている。
ここから判断するに、彼女が理想とする結婚相手の条件は「社会的な地位と知性を備えた男性」であったようだ。
果たして、彼女の 身をよじるような痛みを伴った選択は、その後半生を 豊かで幸せなものにしてくれたのだろうか? 大いに気になるところである。
モンゴメリーの日記にも手紙にも、夫ユーアンに対して尊敬や信頼以上の愛情表現はみられない。新婚旅行中の記録でさえ、彼に関しては、ほとんど無関心とも思えるほど 淡々とした記述が続く。
一方、ユーアンの方はどうだったのだろう? 「この人をこそ」と思い定めてから、6年間を 辛抱強く待った人だ。その妻は『アン』の成功によってますます知名度を増し、それと同時に経済力も増していく。その上、牧師の妻としても有能で、教区の人々からの信頼も厚い。
そんな妻に対して、自分の無力感や嫉妬を覚えることはなかったのだろうか。
また、日々の暮らしの中で、妻の「愛情」が時として表面的なものでしかない----と感じ取られることはなかっただろうか?
私には、これらの不安や疑念が もともと問題のあったユーアンの「鬱」を、一層強めることになったのではなかったかと、勝手に想像している。
近年になって、モンゴメリーの死は 薬物による「自殺」であったと言われ出している。
それは、夫ユーアンの精神的な病が、教区の人々に隠し切れないほどのレベルになっていたこと、息子たちの起こすいろいろなトラブルの処理に 母親としての心労が多かったこと、出版社との裁判騒動----などが原因していると言われている。
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仮に モンゴメリーがハーマンを選んでいれば 幸せになっていただろうか? イヤ、それはないだろう。夫の「無知」を日常的に目の当たりにする苦痛も、誇り高き彼女には 耐えがたかったであろうから。(ひょっとしたら、ハーマンがもうこの世に存在しないということが、彼を美化することになっていたのかも?)
あれほど私たちを幸せにしてくれた『アン』の作者が、真に幸せになるために、どのような結婚の選択をすればよかったのだろう?
あなたは これに即答できるだろうか?
あッ、そうだ! シングルという道もあったのでは? 「崇拝者」を沢山はべらしたシングルのモンゴメリーって 素敵ではないだろうか!?

